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地域からのビジネス創造・参画による新たな観光産業の展開が求められている。
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都市部といってもその中に都鄙が存在する。都市部の高齢化団地、老朽化マンション、都心の夜間人口の空洞化、小中学校の統廃合など、少子高齢化、人口減少問題が影を落としている。都市部の私鉄・地下鉄では、団塊の世代の退職によって、通勤定期という安定した収入をかなり失うことになる。それを補うためには、退職組をどう鉄道に留めるかが大きな問題となる。
大学や専門学校への再入学やカルチャー講座促進、ボランティアへの誘導、観光イベントへの参加など直接の輸送事業ではない事業の掘り起こしに力を入れて、新たなサービス価値を開発しなければ乗客の漸減を静観するしかない。鉄道輸送、とりわけ、地下鉄や地域の私鉄などは量的拡大は望みようがないのだ。そこでの新たな取組みが、鉄道資産である駅や沿線の再開発であり、非接触ICカード導入のIT化である。これによって鉄道事業の合理化、効率化だけでなく直接鉄道とは関係のなかった空間や事業領域までサービスを拡大した。この取り組みは、都市部における「地域の掘り起こし、活性化」であり、鉄道にとっては業態変革なのである。
このような背景には、人口減少だけではない物を買わない「成熟化社会」がある。モノ(物)からコト(事)へという時代となっているからこそ、地域という目線、発想が大切になってくるように思える。前述にもあるように、地方・地域の重要な資源の一つが「観光資源」である。
2007年10月に発足した観光庁が目指す観光立国(訪日外国人1000万人、海外旅行者2000万人、観光旅行消費額30兆円)への動きと、地方の動きをどう連携させて活性化に結び付けるか、それは大きなチャンスになるだろうと言われている。 ただ、最新の観光白書では、旅行回数が激減、宿泊数では観光立国推進基本法に定められた目標の6割に留まった。理由はまだ明確ではないが、経済不安、年金不安と団塊の世代の定年延長などが影響していると見る筋もあるようだ。
いずれにせよ、短期結果に杞憂することはない。日本観光協会企画総括グループの島倉氏は「日本経済にとって観光は非常に重要な役割を果たしており、特に国内観光の振興は、地域を活性化させるための切り札となっている。…各地域では、観光立国の実現に向けて観光振興による地域活性化の取り組みが展開されている。特に、旅行需要の拡大に向けて観光プロモーション活動が行われているが、宣伝キットの王道とも言えるパンレットやマップ、さらには携帯端末を使っての情報発信など、アナログとデジタルの両メディアをコンバインさせての展開が、これまで以上に重要となっている」という。観光を成功させるにはメディアの役割が大きく、観光情報がユビキタスでなければならない(紙メディア・携帯・パソコンの電子メディアの連動)。
旅行者は移動しながら次々と情報をキャッチできれば、不安なく不便なく楽しく旅ができるというが、まだまだ道程は遠そうだ。その一つが、顧客視点の地元の情報とその流通が思ったより少ない。たとえば、地元でしか得られない場所の風景写真、季節写真の入手ができないことが多く、DB化の促進(著作権の上手な処理)が必要だという。そのための技術提供とアーカイブデータを印刷企業として取り組むことは可能であろう。また、情報流通が脆弱で、ポスター、パンフ、案内地図、ツアー紹介などの情報が、発信はしているが、欲しい人、探している人に上手く、効率よく届かないという基本中の基本が意外にできていないのが現状で、印刷のムダを指摘されることも多い。
もう一つの大きな課題が人材である。政府の施策とは関係なく、昨今のツアースタイルが大きく変化している。かつては団体ツアーや大手旅行代理店のパッケージツアーが定番メニューであった。つまり旅行とは物見遊山であった。ところが今は、エコツアー、産業ツアー、体験ツアー、メディカルツアー・・・といったコンセプト型ツアーで学び、鍛え、体験するものなど、企画・内容が多種多様になっている。
また、着地型観光が次第に注目されるようになった。旅行手配は、一般的に出発点ですべての手配をするが当たり前であるが、観光自体に中身については、地元がよく知っており、地元の方と相談しながら観光を決める、というのが着地型観光というようだ。地方の小さな代理店や商工会議所などが積極的に取り組み始めている。
前述のようなこれらを成功させには、企画コーディネートする人材が必要で、観光庁では観光地域プロデューサーの育成に力を入れており、モデル事業を実施しながら人材育成をしている。
国土交通省の観光地域プロデューサー制度
現実には、人材、アイデア、資金といったところで牽引役をしているのが、観光産業関連企業ではなく、観光産業と直接関係のない、異業種グループ、商工会議所グループでのチャレンジが盛んのようだ。旧来の観光産業は新しい流れを作りあぐねているようだ。
経産省が推進する「広域・総合観光集客サービス支援事業」の例でも、旅行会社が企画するツアーというレベルでななく、コンソーシアム、NPO法人を設立し、多くの関連企業、団体が一緒に「地域の活性化」を目指して活動をし始めている。そこにはかつてには見られない、人材育成という言葉が必ず登場する。それは前述したような観光地域プロデューサーから観光ガイド、通訳案内、地元教育、産学共同、メディアの情報発信、イベント、ボランティアまで含めた「人」の育成に時間と費用が割かれている。各地でご当地検定(文化、歴史、生活)が設けられ、テキスト、試験、認定を行っているところも多く、これらの指導・解説にあたる人たちの人材育成も盛んである。
以上のように地域からのビジネス創造・参画による新たな観光産業の展開が求められている。
JAGAT大会2009では山口県・大村印刷㈱ 代表取締役の大村俊雄氏、愛知県・木野瀬印刷㈱ 代表取締役木野瀬吉孝氏をパネラーとしてお招きし、地域活性化のための新しい視点・発想についてお話を伺いならが、印刷の役割、これからのビジネスについて考えていきます。皆様の多くのご参加をお待ちしております。