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印刷には、地域密着、幅広い産業・企業を顧客に持つ特性を活かし地域興しのプロデューサー的企業として活躍できる土壌があるはず。
今年20歳の新入社員が入社したと仮定しよう。彼・彼女が41歳の中堅社員になったとき(2030年)、64歳以下の人口が、現在より2346万人減少し、逆に65歳以上の人口が1091万人も増加する。目を疑うような数字だが事実である(国立社会保障・人口問題研究所)。急速な人口減少、少子高齢化という「人口動態」は日本経済の根幹を揺るがす大変化である。この現実はかなり重く受け止めなければならない。つまり、経営環境のあらゆる面に影響がでてくるからだ。一極集中構造や北米輸出依存体質といったこれまでのあり方も大きく見直す岐路に差し掛かっている。
政府の抜本的見直しの一つが2008年に閣議決定されスタートをしたばかりの国土形成計画(国土交通省)である。国土計画とは、「土地、水、自然、社会資本、産業集積、文化、人材等によって構成される国土の望ましい姿を示す長期的、総合的、空間的な計画を指す」ものである。1962年(昭和37年)に策定された第1次全国総合開発計画以来、すべてが量的拡大、発展を基本にしたものであった。
今回の計画案が過去の計画と根本的に違うのは、量的拡大から質的向上を目指した「成熟社会型の計画」であることと、「二層の計画体系(国と地方の協働によるビジョンづくり)」という「全国計画」と、2つ以上の都府県にまたがる広域ブロックごとに作成される「広域地方計画」から構成され、地域ブロックの活性化と自律が謳われていることである。
この計画には以下の5つの戦略的目標を掲げられている。
◇グローバル化や人口減少に対応する国土の形成
(1)東アジアとの円滑な交流・連携
広域ブロックが東アジアの各地域と直接交流・連携して、アジアの成長のダイナミズムを取り込む。
・東アジアの市場をにらんだ企業の新しい発展戦略
・観光立国の実現
・陸海空にわたる交通・情報通信ネットワークの形成
(2)持続可能な地域の形成
人口減少下においても、地域力(地域の総合力)の結集、地域間の交流・連携により、魅力的で質の高い生活環境を維持していく
・集約型都市構造への転換
・医療等の機能維持など広域的対応
・新しい科学技術による地域産業の活性化
・美しく暮らしやすい農山漁村の形成
・二地域居住、外部人材の活用
・条件の厳しい地域への対応
◇安全で美しい国土の再構築と継承
(3)災害に強いしなやかな国土の形成
減災の観点も重視した災害対策や災害に強い国土構造への再構築を進め、安全で安心した生活を保障していく。
・ハード・ソフト一体となった総合的な災害対策の推進
・災害に強い国土利用への誘導
・交通・通信網等の迂回ルート等の余裕性
・避難誘導体制の充実など地域防災力の強化
(4)美しい国土の管理と継承
美しい国土を守り、次世代へと継承するため、国土を形づくる各種資源を適切に管理、回復する。
・健全な物質循環と生態系の維持・形成
・海域の適正な利用・保全
・個性豊かな地域文化の継承と創造
・国土の国民的経営の取組
◇4つの戦略的目標を推進するための横断的視点
(5)「新たな公(こう)」を基軸とする地域づくり
多様な主体の参画を、地域の課題の解決やきめ細かなサービスの供給につなげる
・地縁型コミュニティ、NPO、企業、行政等の協働による居住環境整備等
・地域の発意・活動による地域資源の発掘・活用等
・維持・存続が危ぶまれる集落への目配りと暮らしの将来像の合意形成
経済産業省が2006年に策定、2008年改訂された「新経済成長戦略」においても人口減少下での新たな成長戦略としてに盛り込まれた施策のひとつが、地域経済の活性化(地域活性化戦略)であり、地域・中小企業の成長に向けた新たな戦略として、地域、コミュニティ、IT、安心・安全、イノベーションが強く描かれている。
人口減少下での経済を考えるときの大きなキーワードが「地方、地域の活性化」である。
多くの地方企業は東京に支社を構えている。もちろん印刷も例外ではない。一極集中という偏った経済集積ではいたしかたないことかもしれないが、「東京にしか仕事がない」という声が聞こえて来る一方で、地方回りで忙しいというあるデザイン会社の社長の声もある。
このデザイン会社は地方企業であるが、日本各地へと出向き受注を繰り返している。地元の有力印刷会社との競合も多々あるが、思ったより参加企業が少ないという。地元企業による無風のような入札状況に参加すると難なく受注できることもあるという。それに比べ東京は競争が激しい。しかし仕事の絶対量が多く、東京での受注に期待するのも自然な流れであろう。しかしこのデザイン会社はむしろ地方・地域に注目している。東京での期待量的確保より地方・地域での質的向上であり、質的拡大である。つまり、むやみな競争を避け、コストを抑え、自社の利益と顧客満足を確保する。質の向上は周辺の付帯サービスへと波及することで周辺部へのビジネス拡大に繋げていくのがこのデザイン会社の戦略である。
前述の国土形成計画の方向からも明らかに広域ブロックによる地方分権化の流れである。地域活性化に向けて官民一体で自律回復を目指すには、地方であることを弱みではなく強みにする発想の転換が必要である。
都市部の強味は巨大な消費人口にある。この集中した消費人口を流動化、分散化させることが肝心である。国土形成計画の第一の戦略が、東アジアとの円滑な交流・連携によって広域ブロックが東アジアの各地域と直接交流・連携して、企業の新しい発展戦略、観光立国の実現、それを下支えする、陸海空にわたる交通・情報通信ネットワークの形成であると掲げているように、観光資源、自然環境、学校・教育環境、農業・食料資源、文化遺産などの資源活用が重視されている。つまりこのような資源活用によって消費人口の流動化を図ろう、とういものである。
これまでの地方・地域の活性化といえば、「安い土地、安い人件費」を売り物に製造工場誘致が定番であった。これからは地方・地域の豊かな資源の有効活用によって付加価値の高いサービスや商品の提供をすることであり、誘致をするのは「人」そのものである。
顧客視点に立った「地域資源、地域発想」のパワー
徳島県・上勝町の株式会社いろどりは余りにも有名な成功例だ。過疎、高齢者、産業なしと来れば手の打ちようがないのが普通であるが、何もないということは自然がある、高齢者は自然を熟知した観察者、という発想から「もみじや山草で料理の『つまもの事業』」を見事立ち上げた。また、東京の地下鉄とJRの乗換えマップ「電車&地下鉄のりかえ便利MAP」を発案した主婦がマンナビ(車ではなく人をナビゲーションする)をコンセプトに東京都心という地域から交通と地域をキーワードに全国展開する「株式会社ナビット」という情報コンテンツ企業に発展させたことも地元資源・地域発想の典型的な例といえよう。主婦の目線「毎日特売」というチラシ情報も顧客視点の地域発想の成功例だ。この企業のコンテンツを支えているのは地域のネットワークから収集される膨大な情報や人そのものである。地元発想、地域特性を大切にしながらビジネスはローカルを越え、広がりを持ち続けている。効率は作り手の目線の効率ではなく、受け手目線の効率いわば効果に置きかえることができる。価格価値も受け手の目線であればニーズの強さが勝るはずなのだ。
印刷には、地域密着、幅広い産業・企業を顧客に持つ特性を活かし、地域興しの中核企業あるいはプロデューサー的企業として活躍できる土壌があるはず。地域で仕事を創造することが重要である。
JAGAT大会2009 では山口県・大村印刷(株) 代表取締役の大村俊雄氏、愛知県・木野瀬印刷(株) 代表取締役木野瀬吉孝氏をパネラーとしてお招きし、地域活性化のための新しい視点・発想についてお話を伺いならが、印刷の役割、これからのビジネスについて考えていきます。皆様の多くのご参加をお待ちしております。
後編(2)へ続く