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ITの仕掛けだけでOneToOneのオススメをしたために、ダイレクトマーケティングにがっかりしたことも多かったであろう。
フィリップコトラー/ゲイリーアームストロング共著の「コトラーのマーケティング入門」の中に、フィンガーハットという会社のダイレクトマーケティングの話がコラムで出てくる。これは今日アップセル・クロスセル・CRMという言葉でやりたいことを、アナログの時代からやり遂げて成功した会社である。その成功法は読めば誰もうなずくようなもので、例えば顧客の特性、購買履歴、ニーズに合わせたDMを送る、とか、顧客との長期的なリレーションシップを築いている、などと聞いても、「今更」と思うかもしれないが、それが本当にできた会社は少ないということだろう。
フィンガーハットの意見として「競合他社のほとんどが全製品を載せたカタログを使い、個々の顧客が何を欲しがっているかにあまり注意を払っていない」「フィンガーハットは顧客一人ひとりが何を欲しがっているかを突き止め、プロモーションと連動したイベントを催している」とある。この会社は2500万世帯のデータベースをもち、そのうちバースデーのプロモーションなどに乗る顧客である100万人に対してさらにリレーションシップを深めて、気の利いたオススメなどができるようになっているようだ。
最初にフィンガーハットの名前を聞いたのは、100年間近くアメリカの通信販売の王であったシアーズローバックが前世紀末で通販を止めてしまうときに、その後継に名乗り出たのが同社だったからだ。同じ通販でありながら、撤退するところとそれを足がかりにビジネスを伸ばすところという極端な対照であった。シアーズは品揃えにこだわったのであろうが、商品流通が行き届く時代に変われば、こだわるべきところも変える必要があったのだろう。
日本の通販業者も同じくらい長い時間をかけて今日のビジネスモデルを作ってきたし、ほぼ似たようなことをしているともいえる。アナログ時代にこれらの経験をしてビジネスモデルを作っていくのに20-30年かかったであろうに、Amazon.comは10年もかけずに今のシステムを作ってしまったように思う。ただし簡単に言い切ってしまうのは皮相的で、Amazon.comは商品を作っていないが、通販業者は自社商品を開発しながら売っているので、Amazon.comのような身のこなしの軽さはないが、逆に他のEC業者にはできない面もいろいろもっている。
それはフィンガーハットのような「一人ひとりが何を欲しがっているかを突き止め」る点だろう。購買データをいくら集めても、自分用ではないものを買う場合があるのでアップセル・クロスセルには十分でなく、代理購入を分析して顧客の家族や人間関係、ライフスタイルを推定することをしなければならない。それには商品それぞれについて、どのような買われ方や使われ方をするかを知る必要があるので、そもそも商品開発からのシナリオが重要である。それは単なるECだけをしているところには無理であろう。
またOneToOneのオススメやバリアブルDMのレスポンス率の話になると、フィンガーハットはプロモーションに乗ってくる顧客を全体の2500万世帯の中から100万に対象を絞っていて、そこにはさまざまなデータがあるように、先に絞込みをしていれば非常に高いレスポンス率は期待できるが、分母となる集団の特性が曖昧だとOneToOneもオススメもやっている意味が希薄になる。こういった通販の内側のようなノウハウを見ないで、ITの仕掛けだけでOneToOneのオススメをしたために、ダイレクトマーケティングにがっかりしたことも多かったであろう。
日本の通販の雄であるニッセンの強みを考えると、対象が主婦層であるにしても、主婦の欲しいものだけを並べるのではなく、家族が必要なものを主婦が簡単に代理購入・まとめ買いできるようにもっていった「家族通販」というのが大きいと考えられる。ニッセンは独自に世帯やライフスタイルを推定する情報をもつわけだが、その数もマスメディアである新聞購読者以上であり、極端にいえばOneToOneチラシが可能なほどである。
こういった会員情報は競合のない外部企業でも利用可能になってきたが、フル活用をするにはこれを築き上げたニッセンと同じくらいのデータマイニングのセンスが必要になる。つまり、ニッセンが「代理購入を分析して顧客の家族や人間関係、ライフスタイルを推定」したのと同じように、ニッセンの顧客特性と自分のビジネスの関係をうまく推定できないといけない。これは商売の勘をロジックに置き換えるような行為であり、こういったロジックをマネジメントするツールもできればよいように思える。
ALPS協議会 2009年4月