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さまざまなメディアに対する総合的なリテラシーという人間力でデジタルメディアに挑戦していくしかない。2009年3月19日クロスメディア研究会より
JAGATのクロスメディア通信教育の冒頭にもあるが、クロスメディアを技術の問題として考える場合、マーケティングなどの方法論としてのもの、生活者レベルでの変化として社会現象としてクロスメディアを考えるとか、クロスメディア市場は1兆円というような経済的な取り上げかた、広告のあり方など、いろんな切り口がある。ここでは、生活者が自分の自己実現のためにどのようにメディアを活用するかというリテラシーに焦点をあてるが、それは情報発信する側であっても同様にうまくコミュニケーションするリテラシーをもってビジネスをするという点では同じ課題である。
ここでのリテラシーの特徴はメディアの垣根のない思考とか行動のことで、今そういったことが起こってきている。これと対峙する考え方は既存メディアの側がよく行う「メディアの優劣比較」である。新聞やTVとWeb情報発信の機能別の優劣比較があるが、それをしていると既存メディアの強みをベースにした我田引水になりがちで、また既得権益をなんとか守り通そうということで知財権への要望が出る。
しかし人々は実際はメディアの比較などしていないで、いろんなメディアを重なり合うように使うのが当たりまえになっていて、使い分けがはっきりされているわけではない。マスメディア側は「先にメディアありき」と考えがちだが、マスメディアを手本にWebでの情報発信をするとうまくいかない点はいろいろ見えてきた。2008年のクロスメディア研究会は「ビジネス革新」を軸にクロスメディアを考えた。Webをビジネスにうまく使う例は出てきたが、どんなビジネスもWebを使うとうまくいくというものではなく、使いこなしの優劣はリテラシー問題が大きい。
2008年秋以降の不況でマスメディア広告は大きく下がって、アメリカでは比較的堅調であったローカル広告も2009年は前年比1割減と見られている。今後5年間の予測でも2008年レベルには復元せず下がっていく。しかしローカル広告のうちデジタルメディアは年率平均16%ずつ増えていく予測がある。これは広告を担うメディアのシフトがあるということだ。
2008年はアメリカは大統領選挙の年だったのでニュースは盛り上がったが、有名な地方新聞が廃刊をし始めたし今もまだその傾向は続いている。しかしその中でWeb新聞が台頭してきた。それより先行してアメリカの名だたる新聞はWebの上でも先進的なサービスを繰り広げていたにもかかわらず、個人がやっているような huffintonpost.com などへのアクセスは先輩新聞サイトに追いつけ追い越せの状態になってきた。つまり紙の新聞でもWeb新聞でもコンテンツは「大統領選挙」という同じようなものを扱っていても、ニュースのビジネスは変容していて、古いリテラシーのマスメディアの限界ははっきりしてきた。
Webそのものは未だにブランディングに使うことが主流ではあるが、日常のビジネスに必須なものともなりつつある。紙のドキュメントもCSSの技術でWeb上のものから組版して出力できる方向にある。いろいろな情報手段がやはりインターネットに集約されつつある。
2008年の春にマーケティングシェルパという会社が世界のトップマーケッタ達に予算をどんな媒体に振り分けるかというアンケートをしたところ、オンライン系は予算を増やすところが多く、SNSやBlogなど「Web2.0 social net marketing」は「増やす」が47%あり、既存メディアのラジオTVは減らす意向が59%あった。実際に大体その通りのことが起こって、消費者向けの食品などが広告先を変えた。
3月始めに出た2009年度の予算の振り分けに関する調査では、やはりSocialMediaに対して予算を増やすところが48%でトップである。しかしリスティング広告などは増やすよりも減らそうと考えているところが上回り、単に画面に広告を貼り付けるようなものも減らそうと考える方が多い。外部のEmailリストの利用も大幅に減って、自社の顧客情報を中心にしたマーケティングになろうとしている。
これが何をもたらすかを考えると、マスメディアと違ってメディアの担い手は、直接顧客と面識のある営業とか販売担当者がメディアを操るようになることで、Web、ケータイはそうであったが、デジタルサイネージなども売り場に近いところでコントロールをするものになりつつある。ここでマスメディアの真似をしても意味は無い。
ではクチコミのCGM・UGCでうまく煽ってマーケティングができるのだろうか? うまくいっても瞬間最大風速的な成功でしかなく、持続的に発展させられるクチコミが新たな課題になっている。今のSocialMediaの利用実態はブランディング狙いであって消費者向けTVCMと大差はない。これはこれで広告予算のシフトと合致するものではあるが、SP広告的な販売に結びつくところはクチコミでできていない。ネット販売にクチコミが役立つかどうかの評価は半々くらいである。
クチコミ効果はユーザレビューやランキングやBloggerとの良い関係で如実であると考えられているが、同時にそれらは非常に計測や予測が困難で、マーケッタにとっては分析や習熟が最もできにくい分野である。結局これらは誰でも出来るものではなく、そこは担当するマーケッタの読み取り能力次第ということになる。これを言い換えるとやはり、さまざまなメディアに対する総合的なリテラシーの問題になる。いまのところは人間力を上げていくという方法でデジタルメディアに挑戦していくしかないのかもしれない。