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新しい業態、あるいはビジネススタイルへの変革には、外への変革だけでなく、それを根本で支える、賃金制度と評価制度の整備・改善が必要である。
企業にとって次代を担う人材採用は企業存続の基本である。業界全体での採用状況は分からないが、JAGATの通信教育を参考に見ると、内定者の事前教育の一環として通信教育「新入社員コース」を採用する企業が目立った。こういう時代だからこそ優秀な人材を採用し、大事にしたいという傾向の表れかもしれない。短期的には景気悪化のため就職難ではあるが、長期的には若年層減少による人材不足であることに変わりない。
印刷業界はメディア環境の変ぼうによる業態変革が待ったなしの状況にある。新しいビジネスを創出するためには、何よりも「新しい人材の確保と育成」が必要である。厳しい経営環境だからこそ人材確保と育成への投資が最優先の経営課題だと言えよう。
人材確保と育成のためには、賃金、評価、育成、活用といった人材育成のためのトータルシステムを整備しておくことが重要である。大企業では人事の専門担当がいるので構築しやすいであろうが、中小企業でも既存のマネジメントシステムを矛盾なくうまく活用できれば比較的スムーズに整理・改善ができる。例えば、ISO19000の資源の運用管理「6.2 人的資源 」の項目が整っていれば、力量の明確化・教育の計画・実施・評価ができているはずである。しかし、計画が資格試験実施のみでその他の訓練がされてなかったり、それぞれの現場担当者に任せきりだと、企業全体の育成計画や経営者が考える人材育成と乖離(かいり)して、形がい化した教育計画になってしまう。
「会社に必要な教育」「経営者が目指す人材」を明確にすることがまず必要で、会社のこれからの方向性と一致していなければならない。それをどう評価し、処遇するかといった経営者としてのものの考え方、ポリシーを決めることが前提として必要である。当然、そのようなことは現実に会社経営をしている以上日々やっていることで、教育も賃金、評価制度が全くない会社はないはずである。
社会経済生産性本部のコンサルタント、岩崎秀一氏も「賃金制度の抜本的な見直しや改善は、経営者がこれからの改革を考え必要と感じた時、バランスを考慮してトータルシステムとして一挙に矛盾を改善するのが一番である」と言う。
個々の企業にとって歴史、風土、社内改革などさまざまなタイミングがあるが、今が印刷ビジネスにとっても大きな転換期であるとすれば、それに伴う人材育成、人事の本丸である賃金・評価制度を整備・改善するタイミングではないだろうか。
人材育成、賃金にしても、経営計画が基本方針である。方針が明確であれば、スタートは現状分析から始める。例えば、人材育成へのプログラム作りには、診断チェックシートのようなツールを利用して営業部門、印刷部門といった部門ごとの現状を幹部・管理職で評価してみる。その時に現状評価を何と比べるかがポイントで、例えば会社方針としてあらかじめ評価項目の重要度を経営者、経営者層が決めておき、中間幹部との重要度の認識のズレがないかをまず確認してみる。次にその重要度と現実評価を比べる。比較において大きなズレ、ギャップがあるものは会社として大きな課題である。そのズレの大きなものを部門の中で見つけ、経営層・管理者で検討材料とする。後は会社として優先順位や教育方法(OJTかoff-JTか)個人目標などを詰めていくことで教育テーマとスケジュールをまとめることができる。
また賃金制度についても難しくは考えず、現状を素直に分析してみる。社員の給料の分布図を作ってみることである。縦軸に年収、横軸に年齢を取り、そこに社員一人ひとりの位置をプロットする(基本給、基準内、基準内+残業+賞与などの4つ)。そこでまずどのような形状になるかを見てみる。そこに標準生計費のグラフを入れてみる。それによって自社の特徴をつかむことができる。その特徴には共通した問題点が潜んでいる。それの解決方法をどう考えるかが、経営のポリシーでもあり、これからの重点人材の処遇方針を考える材料ともなる。
賃金、評価は重たいテーマだがが、いろいろな改革が必要であるこの時期に一緒に取り組むことで、賃金課題や人材計画を先送りしないことである。だからと言って一挙に高い壁を登るのではなく、無理のない進め方、取り組みやすい入口を探ることと経営者と幹部全員の方向を一致させておくことが重要である。
(杉山慶廣)
JAGATでは人材育成のための教育計画立案や職能要件書の支援、賃金制度整備のためのアドバイス、コンサルを行うパートナーコンサルタントを揃えています。また、現状評価のためのツールや資料も準備しておりますので、JAGAT会員サービスチーム(TEL 03-3384-3112)までお気軽にお問い合わせください。