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page2014セミナー(新商品サービス開発に挑んだ会社の「困難」そして「変化!」)報告
多くの印刷会社が売上の減少と収益性の悪化に悩んでいるが、お客様からの品質要求や短納期要求は高まる一方であり、社員の負担はむしろ増加している。激しい価格競争で疲弊するなか、お客様に価格や納期を半ば強制的に決められるのではなく、自ら主導権を取ってビジネスを展開できるようになりたいと考える経営者は少なくない。
とはいえ新事業・新サービス開発といっても中々進まないのが実情である。理由として人材不足を挙げる企業は多い。外部採用による人材の手当も一つの手段だが、新事業開発力を自社の長期的な競争優位の源泉にするには、社内での人材育成の仕組みづくりが不可欠である。JAGATでは、バリューマシーンインターナショナルの河島氏と少人数制グループコンサルティングの「新商品・新事業開発実践塾 」を実施している。
そこでは人材育成についても非常に重きを置いており、ポイントとして次の3点を挙げている。①顧客視点を意識する。②マーケティング+開発のセオリーをセットで学習する。③実践の場(機会)を与える。
page2014セミナーでは、こうした実践事例から瞬報社写真印刷と望月印刷の取組みを紹介した。両社とも実体験をもとにした熱のこもったお話しをしていただいたが、本稿では、瞬報社写真印刷の取組み事例を紹介する。同社は講師派遣というスタイルで「新商品・新事業開発実践塾」を行った。以下は、執行役員東京統括部長の平野義介氏と東京デザイン室チーフデザイナー/ディレクターの原島啓子氏のお話しの要約である。
瞬報社写真印刷では、東京支店の営業とデザイナーを中心に生産現場からも若干名を加え、全部で12名がマーケティング・提案型営業研修に取り組んだ。12名を3チームに分け各チームにはカンプ作成のためにデザイナーを入れた。実施時期は、1年で最も忙しい1月から3月の3か月となった。研修では、講義を聞くだけでなく、毎回、次回までの宿題がでる。提案のターゲットとなる重点顧客と新規顧客をチームごとに設定したうえで、各チームが提案用のプレゼン資料を作成し、みんなの前で発表し、講師をはじめ全員からフィードバックを受けるというスタイルである。
通常の業務が夜遅くに終わり、それから課題作成のためのチームミーティングを行うようなときもあった。体力的にもかなり厳しいものであったが、研修には社長自ら毎回参加し、とにかくやりきるという姿勢で臨んだ。
いま振り返ってみると、この忙しい時期に取り組んだことがかえって良かったのではないかと思っている。あのつらい時期の研修を乗り越えられたのだからという自信のようなものが生まれ、少々忙しくても笑って忙しいと言えるような余裕がある。
実際の提案事例を紹介したい。ターゲットのひとつにスポーツ専門誌の出版社があった。当社はこの出版社の月刊誌をDTP組版から、印刷、製本までを一括で請け負っている。長いおつきあいの中で良好な関係を築いてきたものの、新規参入業者が相次ぎ相見積もりに対応せざるを得ない状況だった。
研修で習ったマーケティング手法を利用して、この出版社に提案を行った。提案するには、まずお客様を知ることが必要となるが、担当営業の持っている情報を共有できていないことや、印刷の仕事以外のことをあまり把握していないことが改めてわかった。情報収集をしつつ、提案内容をチームメンバーで考えて研修で発表するという形で進めていった。そのようにして仮説を組み立てていくなかで、実際にお客様に話を聞きに行こうということなった。
マーケティングの研修をしていることを正直にお客様に伝えて提案を聞いてくださいとお願いをしたところ、快く取材や意見交換を行う“場”をセットしていただいた。お客様から直接、お話しを伺うなかで、当社からの提案で解決できそうなものをピックアップし、再度具体的な提案に落とし込んだ。
提案の一つは、月刊誌のコーナーの中で、スポーツショップの売れ行き情報をメール・ファックスで収集、整理して掲載しているものの業務改善である。情報の収集、整理の業務が煩雑で取材や執筆活動の妨げになっていると聞いたので、当社のデータベースを使ったアプリを提案した。これは、そのまま採用され受注することができた。
もう一つは、月刊誌の定期購読者を増やすためのDMの提案をした。DMのシナリオを作成し、それに沿ったデザインカンプを作成した。こちらは残念ながら採用には至らなかったものの、当社の意欲は買ってもらうことができた。提案について、いろいろ話し合いをするなかで、お互いの視点を理解するという点では大変役に立ったと考えている。
それから、当社のデザインの実績集を相手のデザイナーに見せたところ評価していただいて、その出版社のデザイナーと当社のデザイナーとの関係性が深まることとなった。
この出版社とのつき合いは長かったが、請け負っている月刊誌の事以外についてはお互いに知らないことが多かった。お客様は当社がデザインにかなり力を入れていることを知らなかったし、当社もお客様が毎回の月刊誌の制作でそのような苦労をしていることを全く知らなかった、お互いの知らないことが共有できたことには大きな意味があった。お客様の悩みを聞いて解決のために提案することで、お客様の当社に対する見方が、印刷をする会社というだけでなくパートナーに近づいたのではないかと感じている。実際に、その後の値下げ交渉などは特にされていないので、これは大きな成果だったと思う。
そして研修後も“継続”するということに重きを置いている。研修から約2年経ったが、毎月1回、得意先への企画提案の経過報告やこれから提案予定のプレゼンをする報告会を実施している。報告会の日程は年度初めに決定し、社長も参加している。また週1回、必ず営業責任者が各チームに対し進捗状況の確認を行うことで、おざなりにならないようにしている。定期的に報告会を設けることで、その仕事に関わらなかった社員の学習になるし、当社で扱える商品やサービスの情報共有ができる。
研修の終わりに代表者の藤田が「今まではずっと出口から入って仕事をしていたけれども、これからはようやく入口から入れるようになる」と話していた。受け身の姿勢で納期から逆算して仕事を進めるのではなく、こちらから仕事を創りだすというスタンスで取り組めるという意味である。数字的な成果は、すぐに表れるわけではないが、会社(特に東京支店)は確実に変わってきており、今後の礎が構築されつつあるという実感がある。