本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
ブランド・アイデンティティを策定するために重要なのが自社の立ち位置を明確にし、顧客の心の中に自社のポジションを築くことである。
前回は、印刷会社のブランディング活動の軸となる『ブランド・アイデンティティ』を紹介した。ブランド・アイデンティティには企業として顧客に提供する価値と、競合他社と違う点が明確に表されていなければならない。
ブランディングに必要なブランド・アイデンティティを策定するために、対象の顧客ニーズを探るためのターゲティングも紹介した。そのニーズに対して、自社が競合他社に対し、どのようにして独自性や優位性のある立ち位置をとり、どのような価値を提供するのかという過程が重要になってくる。これをポジショニングという。自社が顧客の心の中でどのような位置を占めたいのかを決めることで、顧客に「このようにとらえてほしい」という想い、すなわちブランド・アイデンティティが明確となり、それを顧客に対して発信できるようになる。
ポジショニングは、ポジショニングマップというものを利用して視覚化することで、社内の共通認識として理解しやすくなる。ポジショニングマップは以下のように作成していく。
ターゲットである顧客が求めているであろうニーズ等から縦横の軸に条件を設定する。それぞれの軸には、高級志向と価格志向など反対・対立するものを条件とするのが一般的である。
それらの軸の条件において、自社がどこの場所に位置するか、競合がどこの場所に位置するかで独自性や優位性があるのかを判断することになる。このポジショニングをブランド・アイデンティティとして発信し、徐々に顧客の心の中における自社の位置を確立していくのである。そうすることで、自社のポジショニングに合致するニーズが顧客に発生したときに、真っ先に自社を思い出してもらえるようになる。
ポジショニングマップは顧客の心の中の状態を想定しているとも考えられ、自社が競合と重なりあっている場所に位置していれば、自社の独自性や優位性は埋もれてしまい、結局は「価格の安さ」で選ばれるようなことが多いので注意が必要である。
ポジショニングは顧客の心の中で、競合と差別化できるものでなければ意味がないので、ポジショニングマップはひとつできればよいわけではない。ポジショニングは、提供製品・サービスの機能的なところから、顧客の情緒・感覚的なところまで幅広く考えなくてはいけない。条件の軸を変えていくつもポジショニングマップを作成し、最も自社が優位になれるところを見つけていく。
印刷会社としてのブランディングを取り入れる場合の一例として、以下のようなポジショニングマップが考えられる。
このようなポジショニングで独自性や優位性ががあれば、ブランド・アイデンティティに落とし込むことになる。ブログなどのSNSで情報発信をしている印刷会社として『印刷だけでなくそれらの活用も相談できる地域の印刷会社』というようなブランド・アイデンティティを策定できる。
ポジショニングマップの条件は、自社の特徴だけでなく、ターゲットの顧客ニーズなども深く掘り下げる必要がある。また競合状態や業界・社会状況なども考えていかなければならない。例として上に提示したポジショニングマップやブランド・アイデンティティは、あくまでも参考例のひとつにすぎないと考えてほしい。
こうして、顧客の様々なニーズに合わせて、それぞれポジショニングを設定し、自社が独自性や優位性が取れるいくつかのポジショニングを採用することになるのである。ブランド・アイデンティティを策定するためには様々な方法があるが、これが一般的なもののひとつである。
ポジショニングマップは、実際のブランディングの活動において「どのようにブランド・アイデンティティを販促やデザイン表現や計画に落とし込んでいくか」にも活用することができる。この辺りは、ブランディングを取り入れたい企業の多くが迷うところでもあり、後々詳しく紹介する予定である。また、競合他社と同じ位置になってしまうポジショニングも、実際のブランディング活動の際に、社内的に「このポジショニングは大きく発信しない」という共通認識ができあがるので、後々まで残しておくことが重要である。
次回からは、ブランド・アイデンティティをどのように企業の活動やデザイン表現に落とし込むかを順に見ていく。
連載第1回 印刷会社に求められる顧客ビジネス支援のブランディング
連載第2回 印刷会社がクライアントに提供すべきもの
連載第3回 印刷会社が取り組むべきブランド戦略構築の流れ
連載第4回 活動の軸になるブランド・アイデンティティとは
連載第5回 顧客の心の中で自社の占めるポジショニング
連載第6回 印刷会社ができるクライアントのブランド価値の表現
連載第7回 ブランドの価値は世界観とトーン&マナーでつくる
連載第8回 デザインを統一するトーン&マナーのつくり方
小澤 歩(おざわあゆむ)
有限会社グレイズ代表取締役 http://ozawaayumu.com/
(財)ブランド・マネージャー認定協会マスタートレーナー
http://www.brand-mgr.org/
東京都江東区出身。広告販促制作会社等でのグラフィックデザイナー、アートディレクターを経て、2002年に広告制作会社として
(有)グレイズを設立。様々な企業の広告販促物の企画デザイ
制作を手がけ、さらにブランディングやマーケティング、心理学等を踏まえたデザインの戦略を使いクライアント企業の成果を出す。現在は企画デザインだけで
なく、デザイン戦略を軸にした企業全体の課題解決、価値を高め差別化をするブランディング、販売促進のコンサルティングのサービスも提供。
また(財)ブランド・マネージャー認定協会トレーナーはじめ全国の企業・団体等で、デザイン表現の戦略やブランディング、マーケティングを伝える研修や講師としても活動。