本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
page2014カンファレンスB3セッション では、地域密着サイトを立ち上げ、全国展開しているヤマゼンコミュニケイションズ常務取締役の山本堅嗣宣氏と宮崎南印刷代表取締役副社長の大迫雅浩氏の事例を紹介した。またクルマによる観光ビジネスのテーマにした、ビジネスモデルの開発を担当している博報堂プロダクツITソリューション事業本部プロデューサーの佐藤博文氏を加えて、印刷会社だからこそできる地域ビジネスの視点からメディアビジネスの今後について掘り下げた。
博報堂プロダクツの佐藤氏がコンテンツ部会部会長を務める「自動車旅行推進機構(カーたび機構)」は、「クルマでの旅がもっと楽しめるように」自動車関連団体・企業、観光関連団体・企業のほか、自治体や地方公共団体などが参画して2007年に設立された。
マイカー、レンタカーを合わせ旅行者の約6割がクルマを使っているが、クルマの旅への情報やサービスが不足している。そこで観光地域情報を集約し、旅行者のニーズに合わせて、地域情報を流通させる仕組みとして、オープンクラウドサービスの地域情報流通プラットフォーム「カーたびクラウド 」を使い、情報流通の促進を図っている。
地元ならではの情報は地域の印刷会社に集まりやすい。地域の魅力、新しいドライブ情報などを収集し「カーたびクラウド」に集約する。蓄積されたコンテンツをカーナビやWebサイト、スマホやデジタルサイネージといったデジタルデバイスへ配信する。もしくはフリーペーパーや観光誌などの紙媒体へと多様なメディアへのマルチ配信を行う。キャラクターを使った商品開発にも取り組みたい。またカーたび機構の会員各社のプラットフォームとも連携して情報発信していくことも考えている。
新しい地域活性化の取り組みとして、地域印刷会社と連携して「カーたびスト 」(クルマたびを楽しむ人)のコミュニティーを推進している。地域の印刷会社と新しいビジネスを開発するJAGATの「観光支援ビジネス研究会」と協働して、通常の観光案内にはない地元ならではの情報が詰まったオリジナルMAPなどを作成している。現在各地域のフリーペーパーなどで展開している事例を紹介した。
ヤマゼンコミュニケイションズは、栃木県内の口コミ情報サイト「栃ナビ! 」を展開している。スタートさせた2000年当初は、印刷会社がポータルサイトを立ち上げることが珍しかった。口コミ情報を収集するために一からスタートして、試行錯誤と苦労の連続だった。情報収集はあくまでも地元の目線にこだわった。
ブランディングが重要と考え、広告宣伝費、システム開発費を投入した。それは、従来の製造業の発想とは真逆であった。「印刷会社は何億円もする機械を購入するが、人材やシステムにはあまり投資してこなかった」。
黒字化するのに5年かかったが、それからは倍々で伸びている。現在は1万店舗以上の出店、30万件近い口コミ数、月間1750万PVと栃木県ではナンバーワンサイトになった。「電気、ガス、水道、栃ナビ!」といわれるようなインフラになりたいという。
「栃ナビ!」では出店している各店舗などから広告料を徴収するのではなく、システム使用料をいただいていることである。それにより小さな商店でもマーケティングができるというメリットがある。
現在は全国で11社による姉妹サイトが立ち上がっている。それもフランチャイズのような画一的なものではなく、各社が各地域に密着した情報を満載するサイトにしていく。
またリアルイベントとして、2014年1月25~26日に自社社屋を会場に栃木県のおいしいパン屋さんが集結するパンまつり「栃ナビ!マルシェ」を開催した。入場者は2日間で8000人、販売開始からわずか2時間で売り切れ店が続出した。ロゴを活用した商品シールやオリジナルバッグの販売も行った。
宮崎南印刷では、新規事業を模索しているときに、「まだまだやることがある」と印刷会社の強みを考えた。文字組版、レイアウト、写真加工技術などのこれまでの印刷文化がある。他業界に比べて印刷会社には一日の長があると判断。情報としての電子書籍に注目した。
そこで、紙とデジタルを融合した「地域特化型電子書籍ポータルサイト」の開発を手掛けた。地元でしか手に入らない印刷物を電子書籍化して、無料で閲覧できるようにした。宮崎県内のパンフレットや情報誌、特に行政の出版する広報誌・観光案内などを電子化する「miyazaki ebooks(ミヤザキ・イーブックス )」を2012年に開設した。
行政の真のニーズは印刷物ではなく、住民への訴求である。紙の印刷だと予算的にすべてを網羅することはできないが、電子化してポータルサイトにすれば、だれでも無料で読めるようにできる。行政の住民への訴求をバックアップするツールとして「miyazaki ebooks」を展開した。
「電子書籍が儲かるわけではない」と言い切るが、一番のメリットは、行政と対等に話ができるようになったことだという。
収益性に関して言えば、地域の中で存在感を増すごとに印刷物を絡めた受注が有利に働くようになったことである。自社独自の付加価値となって、価格競争に巻き込まれない、能動的な提案活動ができるようになった。
こちらも全国13社で「Japan ebooks(ジャパンイーブックス)」を立ち上げて、全国展開している。
各社ぞれぞれの特徴を生かした取り組みになっているが、共通しているのは、地域への貢献であり、主役が印刷会社であることだ。
各社とも向いているベクトルは同じで、それぞれ切り口が違うだけである。プラットフォームビジネスのいいところは、自社だけで完結するのではなく、横展開して全国にまで広げられることである。それができればナショナルクライアントとの付き合いも出てくるに違いない。
またこれまで受け身の営業スタイルだったものを、文字通り「提案型」の営業へ変換すること、本当の意味における顧客のビジネスパートナーとしての活動ができることであろう。コラボレーションしていけば、さらに大きなビジネスに広がる可能性がある。大迫氏の言葉の通り「印刷業界はまだまだやることがある」のだ。