本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
誰にどのような価値を提供するのかを端的に表現するものが『ブランド・アイデンティティ』である。
前回までで、印刷会社がすべきブランディングとはどのようなものかを見てきた。
では、これから実際にブランディングの活動とは何をすればよいのかということについて考えていく。
ブランディングの活動をする際にまず必要なのは『ブランド・アイデンティティ』である。これは自社が顧客にどのような価値を提供するかを端的に表現したもので、ブランディングの活動の軸になっていく。まずは下の図を見てもらいたい。
ブランド戦略〜ブランディングはそれだけで単体で行うものではない。経営戦略の目的を具体的に達成するためのマーケティング戦略があり、そのマーケティング戦略においていかに付加価値をつけたり、他と差別化を図るかというときに役立つのがブランド戦略である。ブランディングは経営戦略から派生するものであり、印刷会社がブランディングでクライアントのビジネス全体を支援できるという理由もここにある。
ということは、ブランド・アイデンティティも経営に直結するものであるという意識が必要である。これは印刷会社として自社のブランディング、クライアントのブランディングという区別がなく全てにおいて共通する考えである。
ブランド・アイデンティティで消費者に提供する価値は、誰の?どのようなニーズを満たすものなのか?を考えて策定しなければならない。それらはマーケティング戦略において見つけ出していくことになる。
ここでマーケティング戦略においてのブランド構築の流れの一例を見ていく。
●市場機会の発見
ブランドとして、自社のこと、消費者のこと、そして競合のこと、様々な視点から情報を分析し、自社が強みを発揮できる市場を探すことから始める。これをすることで、手当たり次第、行き当たりばったりという非戦略的な活動がなくなり、自社の進むべき方向性が見えてくる。
●市場細分化、見込客選定
先に探し出した進むべき市場をさらに分割し、自社と長期的に関係性を築ける見込客を探していく。自社が解決できるニーズもここで詳細に見つけ出していくことになる。
●独自性を発揮する立ち位置決定
選定した見込客に対して、自社のどこの部分を独自性として発信するのかを決定する
この流れで、誰にどのような価値を提供するのかブランド・アイデンティティを策定していく。このようにブランディングとは、自社の製品・サービスをどのような形で消費者に届けるかという戦略になってくる。このブランド・アイデンティティがどのようなものかで、経営や企業としての活動そのものが変わってくることがあるので重要である。
ブランディングをビジネスに取り入れるというと、ロゴ・マークをデザインしたり、パンフレットや名刺、Webサイト等を制作したりと考えられがちである。しかし、それだけでは単に印刷物提供の延長、もしくはブランディングの活動の一部にすぎず、本来のブランディングの戦略とは異なるものである。クライアントのビジネス全体を支援する活動にはなっていかないのはもちろん、これからの印刷会社にとっての付加価値や差別化にはなっていかない。
クライアントのビジネス全体を支援するブランディングは、まずブランド・アイデンティティを策定することから始まる。そしてそれはマーケティング戦略において行われるということを意識しておくべきである。クライアントのブランディングをする際には、共にブランド・アイデンティティ策定やマーケティング戦略をつくりあげることが必要となる。それゆえに、そのプロセスに関わることで、より深いビジネスの関係性が構築されていくことになる。
次回からは、ビジネス支援に直結するブランド・アイデンティティについて詳しく紹介したい。
連載第1回 印刷会社に求められる顧客ビジネス支援のブランディング
連載第2回 印刷会社がクライアントに提供すべきもの
連載第3回 印刷会社が取り組むべきブランド戦略構築の流れ
連載第4回 活動の軸になるブランド・アイデンティティとは
連載第5回 顧客の心の中で自社の占めるポジショニング
連載第6回 印刷会社ができるクライアントのブランド価値の表現
連載第7回 ブランドの価値は世界観とトーン&マナーでつくる
連載第8回 デザインを統一するトーン&マナーのつくり方
小澤 歩(おざわあゆむ)
有限会社グレイズ代表取締役 http://ozawaayumu.com/
(財)ブランド・マネージャー認定協会マスタートレーナー
http://www.brand-mgr.org/
東京都江東区出身。広告販促制作会社等でのグラフィックデザイナー、アートディレクターを経て、2002年に広告制作会社として
(有)グレイズを設立。様々な企業の広告販促物の企画デザイ
制作を手がけ、さらにブランディングやマーケティング、心理学等を踏まえたデザインの戦略を使いクライアント企業の成果を出す。現在は企画デザインだけで
なく、デザイン戦略を軸にした企業全体の課題解決、価値を高め差別化をするブランディング、販売促進のコンサルティングのサービスも提供。
また(財)ブランド・マネージャー認定協会トレーナーはじめ全国の企業・団体等で、デザイン表現の戦略やブランディング、マーケティングを伝える研修や講師としても活動。