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2013年12月20日に、政府が持つデータカタログサイト「DATA GO.jp」が公開された。このサイトは各府省の保有データをオープンデータとして利用できる場をつくるもので、ビジネスや身近な公共サービスへの活用が期待される。地域活性ビジネスを考える中、地域の細かな問題を把握しているプレイヤーとして、目を向けるべきことはなにか? page2014 基調講演 の江口晋太朗講師に伺った。
データを活用し、地域課題解決を図るために考えるべきものはなにか
地域活性ビジネスを考える中、地域の細かな問題を把握しているプレイヤーとして、地元の政治家や市役所の職員といった行政関係者がいることに、目を向けるべきかもしれない。
近年では、米国のオバマ大統領が就任時における基本方針として据え置いた「オープンガバメント」という考え方でもあるように、これまでの一方的な政府からの公共サービスではなく、行政府が民間や個人と協働し、双方とコミュニケーションを図りながら共に新しいサービスを開発する動きが起き始めている。
行政府だけではなく民間レベルで震災に対応するための取り組みとして、東日本大震災においてHondaとGoogle が協働し、被災地周辺の通行可能道路の情報をGoogleマップ上で公開する といった動きは、カーナビデータから収集した走行軌跡データなどをもとに、災害発生以降の通行可能な道路情報を可視化し、被災地に対して支援を行う企業や関係団体に対して大きな影響を及ぼした。
さまざまな情報をデジタルデータとしてアーカイブすることができる現代において、こうしたデータのログをどう有効活用するかによって、地域の課題解決やビジネスのイノベーションを創発することができる。こうしたデータを活用した新しいサービスの開発や地域課題解決を行う取り組みが、近年盛り上がりを見せ始めている。
その中で、政府・自治体が保持している膨大な公的機関が保有しているデータを公開し、政府の透明性を図ったりデータを活用した新しい事業の創発や自治体と民間企業との協働を図ったりする動きを、「オープンデータ」と呼んでいる。
日本でも注目され始めてきたオープンデータとは
データを広く公開し、自由に誰でも利用でき、かつ再配布できるデータを「オープンデータ」と定義している。たとえば、気象データや人口統計などの統計情報、行政機関が保有する地陸空間情報や防災・現在情報などの公共データなどを、利用しやすい形で公開することだ。
オープンデータの流れは、この10年ほどで世界各地で盛り上がりをみせている。2003年にはEU指令で「営利非営利の目的に関わらず公的機関が保有する情報が再利用できることを確保しなければならない」と加盟国対して声明をだし、2005年にはOECDが「情報開示による政府の透明性の確保や制作づくりに対して国民参加を促すためにデータの公開を推進する」とするなど、行政府が持つ情報をデジタル化する環境作りが推進されてきた。
こうした流れを受け、2013年6月に開催されたG8サミット首脳宣言で「オープンデータ憲章」が制定され、各国首脳がオープンデータの流れをもとに新規市場やビジネスの創出、イノベーションを創発をもとに豊かな社会を目指すための取り組みへと舵を切り始めた。
日本においても、2008年頃から経産省が「オープンデータアイディアボックス 」を開設し、政府の取り組みに対して意見を広く募集し双方向のコミュニケーションを通じたデータの活用を模索している。2013年12月20日には、政府が持つデータカタログサイト「DATA GO.jp 」が公開され、各府省の保有データをオープンデータとして利用できるプラットフォームを提供し始めた。データを提供する側や利用する側の双方にオープンデータを分かりやすくイメージすることをもとに作られ、これをきっかけに本格的な「データカタログサイト」の整備に向けて政府も動き出しているのだ。
データをもとに、自治体と個人や企業が協働を図る
では、自治体や個人、民間レベルだとどういった活動がされているのか。例えば、イギリスのOpen Knowledge Foundation が開発したオープンソースをもとに開発された「Where Does My Money Go? 」というウェブサービスは、自治体の予算データをもとにして市民が納めた税金が一日あたりどれくらいの用途に使われているのか、といったものが可視化されるサービスだ。日本では、横浜市を皮切りに現在では全国50都市以上もの自治体の予算データを可視化する動きを個人レベルで取り組んでいる事例がある。
「オープンデータは産業のインフラだ」と語る牧野市長のもと、福井県鯖江市では「データシティ鯖江」を掲げ、行政データを積極的に公開している。地元で活躍する民間企業と連携を図り、バスのロケーションアプリや市内のトイレ情報のマッピング、避難場所や避難経路といった災害情報関連アプリが生まれている。こうしたアイデアを生み出すために、市民と民間企業とが一緒になって地域の問題解決を図るためのワークショップなどを行っている。
武雄市、千葉市、福岡市、奈良市の4市による「ビックデータ・オープンデータ活用推進協議会」も発足し、オープンデータを活用したアイデアコンテストを通じてオープンデータを活用したさまざまなアイデアのプレゼンが行われた。こうしたコンテストを通じて、創業支援や官民連携を見いだそうとする契機となる。
民間企業もオープンデータに関する取り組みを始めている。日本気象株式会社は、自社が提供している気象情報をAPI公開し、さらにデータの活用方法を模索するコンテストも実施。「アースコミュニケーションアワード2013 」と題し、ゼンリンデータコムの位置情報APIと気象情報APIを使い、新しいサービスの可能性を個人や民間企業との協働を図ろうとしてる。
課題に着目する意識と、ソリューションを導き出す企画力が必要
企業内データの活用や、複合的なデータ分析のレベルが高まることで、オープンデータも活用したデータ分析によるベンチャーも登場している。例えば、The Climate Corporation は、米国気象局と米国の農務省が公開しているデータを活用し、過去の気候データや農作物の平均収穫量、土壌データなどをもとに農家向けの保険サービスを提供している。これにより、農家は新しい農作物を作るチャレンジを促進することができるなどのメリットが見いだせる。
もちろん、データをただ使うのではなく、まず考えるべきは現在ある課題に着目する意識と、それをどのように解決するかといったソリューションを導き出す企画力、そしてそれを事業としてスケールさせていくためのビジネスモデルや事業化が必要だ。同時に、データを正しく分析・解析するための統計学的な技術を持った人材も必要となる。目的を把握し、仮説を立て、データから導き出した意思決定や判断をもとにした経営判断を行わなければいけない。
データの有効性を見いだし、どう地域に活かすかが課題
もちろん、現在すべてのデータがオープンデータ化されているわけではなく、まだまだ世界や日本を見てもデータに関する環境設備を整えている段階だ。行政府も、どういったデータが有効活用なのか、自身が持っているデータの価値を必ずしも正確に把握しているわけではない。そのため、民間レベルからどのようなデータがオープンデータ化されると、よりビジネスとしての利用価値があるのか、といった提案を行うことも必要だ。そのために、データの有効性を見いだすためのアイデアを拾い上げる場としてオープンデータ・アイデアソンを経産省と総務省が合同で主催するなどの動きも起きている。
政府や行政、そして民間企業のそれぞれが協働し、地域の問題解決や社会を豊かにするためのイノベーションを創発するための取り組みを、互いにコミュニケーションを図りながら取り組んでいくことが、今後ますます必要となってくるだろう。
2014年2月6日に行われる「地域メディアとオープンデータの未来~印刷会社の関わり方のヒント~ 」では、そうした情報伝達としてのメディアのあり方や、地域が生み出すイノベーションの方法、そして、データのオープン化とコミュニティーがどのように機能するか、といったことを有識者たちと議論し、参加する方々と一緒に考える場としていきたい。まだまだ発展途上のテーマであるからこそ、みなさんとの建設的な議論を生み出す場にしていけたらと考えている。
page2014 地域活性カンファレンス 2月6日に集中開催
地域メディアとオープンデータの未来~印刷会社の関わり方のヒント~
2月6日(木)10時-12時
http://www.jagat.or.jp/PAGE/2014/session/session_detail.asp?sh=1&se=12
地域活性化と広がるコンテンツビジネス~印刷会社のプラットフォームビジネスの可能性~
2月6日(木)13時-15時
http://www.jagat.or.jp/PAGE/2014/session/session_detail.asp?sh=3&se=32
印刷会社と地域活性、3事例から組み立て方を考える ~商店街活性、地域コンテンツ、着地型観光
2月6日(木)15時45分-17時45分
http://www.jagat.or.jp/PAGE/2014/session/session_detail.asp?sh=3&se=35