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スマートフォンが普及したことで、TwitterやLINEをビジネスに活用して効果をあげている企業が増えた。
クロスメディア研究会では、スマートフォン利用によってビジネス分野でのソーシャルメディア活用が広がっている状況を掴むためにセミナー「クロスメディア時代の販促手法」を開催した。LINE@(ラインアット)は、LINEのプラットフォームを使ったビジネス向けメッセージ配信サービスで、クーポン発行や告知などメールマガジンに替わるツールとして利用が増えている。東急ハンズでは、Twitterを「Web上の店員」という位置づけで活用、リアルにつなげる導線として効果をあげている。
前半では、LINE Business Partners の佐藤はる奈氏にLINE@について話を伺った。
LINEとは、無料通話・無料メールができるスマホ向けアプリである。若い世代を中心にユーザーを増やし、現在では世代を問わず国内で4500万人が利用している。半数以上が30代以上であり、仕事上、家族間でのコミュニケーションにも使われている。
LINEは頻繁かつ長時間利用されているのも特徴だ。国内ユーザーの半数は毎日アプリを利用しており、24歳以下では約7割にもなる。テキストチャット上でイラストをやりとりするスタンプが人気で、やりとりされるメッセージや会話などのコミュニケーション数は1日50億ある。最近ではゲームやカメラアプリ、マンガなどのコンテンツサービスも多数用意され、単なるコミュニケーションツールとしてだけでなくプラットフォームとしても進化している。
公式アカウントと呼ばれるビジネス向けアカウントはマーケティングやプロモーションに利用されている。調査によると、約6割のユーザーが企業アカウントと友だち(LINE上でつながっているユーザー)になっている。企業からのメッセージは実際に読まれ、Webへの集客や商品理解の促進に役立っている。
しかし、公式アカウントは非常に効果が高いものの費用が数百万と高価なため、いままでは中小の事業者は利用することができなかった。そこで新たに登場したのがLINE@と呼ばれる店舗向けのビジネスアカウントである。
友だち数に上限があるが、メッセージやクーポンが配信できる機能は公式アカウントと同じである。従来のメールマガジンと比較すると、登録の簡単さ(2回のタップ操作で完了)、LINE自体の高い利用率に基づくユーザーの集めやすさが挙げられる。また 友だちとやりとりするのと同じインターフェイス上でメッセージを受信するため、生活導線の中で、リアルタイムで読んでもらえるという強みもある。
ただ、公式アカウント一覧には掲載されないため、友だち登録するためにはアカウント表示名で検索するか、QRコードを読み取る必要があり、店舗側での告知が必要となる。
20代女性を主要ターゲットとするアパレルブランドのEGOIST (エゴイスト)では、独自に販促物を作成しレジ横や試着室内にPOPを貼って告知している。大事なのは、登録方法や登録メリットを明確にすることで、それらを記載することで登録のハードルを下げ、機会損失を減らすことができる。
メールマガジンにはできない利用方法もある。あるネイルサロンでは雨の日など予約が少ないときにリアルタイムで割引クーポンを発行し集客するフラッシュマーケティング的な活用をしている。バスケットボールリーグのbjリーグでは、PRページを使って試合情報のほか大会の様子や選手の写真集を配信している。
LINE@のメッセージ配信のノウハウは、他のソーシャルメディアとは異なることは注意が必要である。リアルタイムに見てもらえるからこそメッセージは深夜早朝は避ける、週1回程度にするといった、今までにないコミュニケーションの作法が必要となる。
後半は東急ハンズ 緒方恵氏に自社のソーシャルメディア活用について話を伺った。
東急ハンズは幅広い品揃えとスタッフの豊富な知識に基づくコンサルティングセールスを強みとしている。自社の付加価値を「ヒント・マーケット」ととらえ、持って帰ってもらうのはモノだけではなく、ここでしか得ることのできないさまざまな「ヒント」であると位置づけている。その一環としてソーシャルメディアにも取り組んでいる。
Twitter、Facebook、mixi、Youtubeなど複数のソーシャルメディアを利用しているが、お客さんと会話をしたりコミュニケーションをするのに適しているためメインで活用しているのはtwitterだ。実際の店舗での店員とお客さんとの対応をそのままネットに持ち込む意識で運用している。クーポン配信等の誘客施策については積極的には行っていない。
ソーシャルメディアの運用ガイドラインとして、「できるだけリプライには返信する」「相手が何を伝えたいのかを見極めてコミュニケーションをする(空気を読む)」といった十箇条を掲げている。利用を重ねるなかで徐々に改善を加えて現在のカタチになった。
基本的には反応していない人もコミュニケーション対象であることを常に意識するようにしている。また、思わず誰かに話したくなるような内容を「+1 interest」としてポスト(投稿)することを心がけている。例えばプッチンプリンを刺して凍らせアイスとして食べられる玩具の紹介は3000件以上の「いいね!」を獲得した。商品をそのまま紹介するのではなく、効果に着目して発信するとお客さんに伝わりやすい。このような発信を対話を生み出すためのきっかけづくりにしている。
本社で運営しているTwitterのアカウントは目的別に3つあり、そのほかに各店舗でアカウントを持っている。店舗アカウントは、お客さんにとってリアル店舗の疑似体験ができる場として最も重視している。店舗アカウントでは実際の接客のような対応ができる。ある商品の在庫の問い合わせがあったときに「○階バラエティコーナーです!」というリプライができる。この対応は本社アカウントではできない。
ネットショップへのアクセス遷移を見ると、ソーシャルメディア経由の流入が増えている。ソーシャルメディアをうまく使うことで、コストをかけたバナーやキャンペーンと同様の効果を得ることができる。
しかし効果測定は予算をつけていないこともあり、それほどかっちりしていない。TwitterはWeb上の店員という位置づけなので、店員の接客に効果測定するのかという思いもある。
リツイート数、フォロワー数といったソーシャルメディア独自の指標は社内資料には一切出していない。
ツイート内容の内訳は、返信が8割、発信が2割。これが東急ハンズの活用のキモである。店頭で接客しているのと同じ意識で、お客さんひとりひとりの顔を見て、コミュニケーションすることを大事にしている。最初のひとりに共感してもらうことで、共感が拡散していくのが東急ハンズのソーシャルメディアマーケティングの本質だと考えている。
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ソーシャルメディアの勢いは増し、ビジネス上での利用も増えている。印刷会社がチラシとセットでソーシャルメディアの準備・運用まで手掛ける機会もあるだろう。そのときにLINE@に関する知識や東急ハンズの事例が参考になると思う。
(JAGAT クロスメディア研究会 中狭亜矢)