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印刷にクレームはつきものといわれるが、顧客の目的を理解することで最善策を提案できないだろうか。過剰品質を追求する精神で、「適正品質」を顧客に提供できる品質水準を維持したい。
■過剰品質はなぜ生まれるか
過剰品質という言葉がある。印刷業界に身をおく者にとっては、肉眼では見えないようなキズを指摘されて、刷り直しや値引きを要求されたことが思い起こされるかもしれない。あるいは、決定権のない担当者が印刷立会いに来て、校正刷りと同じ色でないからとOKが出ないことに歯噛みした経験もあるだろう。
過剰品質を定義すれば、製品やサービスの品質水準が、要求される水準と比べて高いことを意味する。本来の機能には問題がないのに、わずかな傷や汚れのために不良品とされる部品の山、規格外で廃棄されてしまう野菜や果物、賞味期限切れで廃棄される食品など、身近で過剰品質と感じることも少なくない。「もったいない」を世界に発信しているニッポンが、こんな「もったいない」をなぜ生み出しているのだろうか。
過剰品質の背景としては、見えない部分でも手を抜かない日本人の性質や、完璧なものづくりを志向する日本文化のあり方が指摘される。巧みの技が生み出す「逸品」という評価は、工業製品や農産物に本来適用されるものではないが、日本人は違いがわかりすぎるのかもしれない。日本の印刷物の品質は世界一とも評されるが、その陰で過剰な品質要求に泣く印刷会社や、多量に廃棄される印刷物を生み出す結果となっている。
消費者の品質要求がエスカレートすることで生み出される過剰品質もある。高品質の製品やサービスを享受してきた日本の消費者は、目利きであること、賢い消費者であることに誇りをもっている。コストパフォーマンスにも厳しく、単に安いだけで品質水準の劣る製品には手を出さない。だからこそ不良品には過剰に反応するが、ある程度の品質以上の商品に関しては、その価値を実感することが難しいために、品質要求は高止まりする傾向にある。こうした消費者心理が、コストを度外視した品質要求につながり、過剰品質を招くことになる。
もちろん、企業側にも過剰品質をもたらす原因がある。限られた市場から少しでも多くのニーズを引き出すために、消費者のわがままに対応することを企業努力として行ってきたからだ。かゆいところに手の届く製品やサービスを巡る企業間の競争が、高品質の日本製品を生み出し、国内外での日本製品シェア拡大に寄与してきた。その結果、日本製品に対する信頼が高まり、日本製品のパイの拡大につながってきた。
■「過剰品質」を追求することで「適正品質」を提供しよう
顧客志向はどの業界でも絶対的な指針であることから、過剰品質は必然的な現象といえるのかもしれない。そもそも過剰品質は問題とされるべき現象なのだろうか。
ある製品の品質が過剰なのか(あるいは不足しているのか)は、その製品が何を目指しているのかによって変わってくる。つまり、顧客志向を突き詰めればその製品に必要な品質も見えてくるということだ。
納品した印刷物にクレームが発生したとき、顧客の意向を最優先することがもちろん一番大事だが、顧客の目的を十分理解していれば、最善策を提案できるはずだ。
忘れてはいけないことは、品質向上そのものは目的ではないことだ。「過剰品質」をあえて追求することで、顧客に「適正品質」を提供できる品質水準を常に意識したい。
過剰品質を生み出す日本人の性質や日本文化が「クールジャパン」を生み出していることを誇りに、品質に「魂」を込めて突き進みたい。
■通信教育「印刷技術者のための品質アップ講座」 12月リニューアル開講
2002年の開講以来、中堅社員、管理者層に向けたスキルアップ講座として、多くの方に受講していただいています。今回は、印刷産業を取り巻く環境変化や印刷技術の変化に対応して、オリジナルテキストを大幅改訂しました。
デジタル時代の印刷品質管理のポイントと標準印刷の重要性をわかりやすく、現場に即して解説しています。