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CSS(カスケーディングスタイルシート)はWebやEPUBのレイアウト仕様を規定している。CSS3から見たJLREQ (W3C日本語組版ノート)の役割とは。
電子書籍フォーマットのEPUB3が策定され、縦書きなど日本語組版も対応された。
日本語組版の仕様は、実質的にW3CのCSS3ワーキンググループが中心となって取りまとめられている。CSS3にエディターとして参加している石井宏治氏に、その経緯と今後の課題を伺った。
1993年は日本語組版にとってエポックメーキングな年で、組版ルールのJIS X4051が策定された。
また、Word6.0が発売になり、約物の詰めなどに対応した。その後、1997年にほぼJIS準拠というレベルのWord97がリリースされた。
マイクロソフトは1999年、W3Cに対してインターナショナルレイアウトというCSSの提案を行い、翌年のInternet Explore 5.5は、Webブラウザとして初めて縦書きをサポートした。しかし、その後さまざまな経緯からこの提案は勧告にならず、見直しされることになった。
2005年になって、CSSのエディターのファンタサイ氏と小林龍生氏がドイツで出会い、JIS X4051以外に日本語組版を参照するものがないという現実を突きつけられてしまった。
これが契機となって、小林氏はJLREQ(W3C日本語組版タスクフォース)を立ち上げることとなった。
JLREQの第1版は2008年に公開され、その後EPUBから参照されることになった。そして、2010年、CSSの最新のワーキングドラフトをもとにWebKitに実装され、2011年、EPUB3.0が勧告になった。
今の日本語組版の基本がJISにあり、JLREQのおかげで日本語を読めない人でも参照できるようになり、EPUB3.0に繋がったというのが、JLREQの果たした役割である。
CSSの仕様ではWriting mode Level 3というモジュールで縦書き機能をサポートしており、EPUB3はこれを含んでいる。WebKitでも実装されている。
縦書き時の文字の向きについては、日本語は上向きで、欧文は横向きである。ただし、記号には縦向き、横向き専用もあり、そのままではうまく表示できないため、ディスカッション中である。WordやIEも未対応である。縦横混在については、全てでサポートされている。縦中横については、IEとWebkit以外はサポートしている。
WebKit以外は禁則に対応している。CSSには禁則ルールを「通常」から「厳しくする」と3段階の設定がある。両端揃えについては実装依存、「どういう実装をしてもいい。ただ日本語ではJLREQを参照するといい」としている。EPUB仕様も同様である。
約物詰めは、例えば閉じ括弧の後に句読点が来たときに半角分(2分)詰めるといったことである。CSS Text3で議論していたが、Text4に先送りになった。ぶら下がりはText3には入っているが、EPUBにはない。
ルビと行の処理は、基本的なルビに関しては一通り動く。仕様はHTML5である。二重ルビ、上下ルビについてはHTML5でもできていない。HTML側、W3C側としては、今の段階で入れないと永久に入らないだろうと言っているが、日本で今「やるな」という声が出ているので、微妙である。
行取りは、ヘッダーを3行取りにしたいといったもので、Wordではできるが、CSSではまだ議論中である。
CSSワーキンググループでは、仕様が固まらないと製品化が進まないので、Text Level 3とWriting mode Level 3の安定化を最優先と考えている。
また、次の時代への種まきを考えている。日本語特有のルビ、行取りやライングリッド、欧文とのベースライン揃えなどの対応を進めていく。
CSSとしては、より高度なレイアウト、ページ組版も進められている。たとえばFlexboxはブロック型、インライン型、表形式のレイアウトが可能になる仕様である。Regionは、雑誌のように複数のボックスを指定し、順に文字がフローするもので、アドビとマイクロソフトが実装を進めている。これらの仕様も安定すれば、EPUBに含めるということになるだろう。
(まとめ:JAGAT 研究調査部 千葉 弘幸)