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厚生労働省は、労働安全衛生法の一部改正による職場のメンタルヘルス対策の義務化を進めている。
■メンタルヘルスチェックの義務化
改正法案が実施されれば、一般の健康診断同様に、すべての事業所における従業員のメンタルヘルスチェックが義務づけられる。厚生労働省のプレスリリースによれば、メンタルヘルス対策の充実・強化を目的としたこの法案のポイントは、以下のとおりである。
(1)医師または保健師による、労働者の精神的健康状況を把握するための検査を事業所に義務づける。(2)検査結果は、検査を行った医師から直接本人に通知され、本人の同意なしに事業所に提出することはできない。(3)本人が希望すれば、事業者は医師による面接指導を実施しなければならない。(4)そのことを理由に、本人に不利益な扱いをすることはできない。(5)面接指導の結果、必要な場合は、作業の転換、労働時間の短縮など、適切な就業上の措置をしなければならない。
改正法案の背景には、激増する職場のうつ病、過労死、平成13年から続く年間3万人を超える自殺者数の多さなどがあるという。過剰なノルマと長時間労働によりうつ病になる人が増えると、労災申請や休職申請も増加し、企業負担も重くなる。労働政策研究・研修機構(厚生労働省所管)の2011年度調査結果によれば、全国の5000余りの事業所で、うつ病を患う従業員のいる事業所は、57%にのぼった。JAGATの経営幹部向け労務関連講座でも、従業員の業務適正と心身健康状態の相関関係について、受講者の関心が高かった。
■新型うつ病の増加
さらに、最近若年層に多く見られるうつ病は、従来の典型的なうつ病と異なり、職場でその対処に戸惑うことが多い。従来タイプは、「責任感が強い人が、仕事を抱え込み、抑うつ的、無気力、何に対しても興味・関心がわかず、自責感が強い」といった特色があったが、最近目立つのは「仕事や苦手なことにはうつ状態」だが、「自分の好きなこと、例えば趣味などには積極的で」「権利主張が強く、他罰的で自責感が弱い」タイプで、新型うつ病と呼ばれる。休職中の手当や社内制度を調べ上手に利用したりするが、復職となるとスッキリ回復せず、何度も休みを繰り返す厄介な病状だ。未熟で自己中心的な若者が増えたと言われかねないが、その数の増加は、やはり社会の歪や問題として捉えねばなるまい。また、安易に“甘え”扱いし対応が遅れると、事態の悪化を招き、訴訟問題にも発展しかねない。
専門医によるチェックと指導は重要だが、組織や企業にとって、従業員を欠くダメージを最小限にするためにも、職場の環境改善を含め、できるだけ事前に対処したい。日本うつ病学会は、7月末に初のうつ病治療ガイドラインを発表したが、軽症うつ病の診断では、傾聴・共感の姿勢が重要であり、安易な薬物治療は避けるべきだとしている。
■職場の事前対処法
(1)日頃から、上司や同僚が職員の変化に気づき、ひと声かけられる、コミュニケーションの取りやすい、信頼関係ある職場づくりを心がける。また、上司は、部下が仕事を抱え込まないよう業務負担適正に務める。(2)頻繁な遅刻・早退・欠勤などのサインは、まずは人事労務問題として対処し放置しない。(3)人事/管理部スタッフや管理監督者は、メンタルヘルスケアやうつ病に関する正しい知識をもつ。特に、人事/管理部スタッフは、産業医や専門医の意見や説明をきくときに、理解できるレベルが求められる。知識を深めるには、外部の相談機関や勉強会等を利用するのもよい。(4)相手が攻撃的であっても、怒ったり無視したりという感情的な、ある意味同レベルの対応を取らない。腫れ物に触るような態度も、問題をこじらせ、さらに複雑化させる。(5)医師の診断が出たら、社内規定に即して休職を命じたり、休職期間を通算できるよう、その根拠を就業規則に定め、明文化しておく。⑥早期発見、早期対応・治療、休職・復職制度の整備を進める。
企業は、従業員一人ひとりが力を合わせることによって成果や収益を上げる場である。何より事態が深刻化する前に適正に対処したい。
(JAGAT 教育コンサルティング部 泉 聡子)