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2010年に米国で出版、話題になった本『Disrupting the Future』の和訳が発売された。印刷人にとっては耳の痛い話ばかりだが、絶対的必読書である。
本書は日本でも名高い印刷関係のコンサルタントである米国のリチャード・ロマノ氏とジョー・ウエブ博士の共著である。本書の和訳が出版された背景には、フォーム工連の山口専務理事の情熱あってのことなのだが、日本語訳が出回ることで、日本の印刷業界の強い刺激になってくれれば、山口氏も喜ぶことだろう。
米国と日本の時間差を2年と見ると、2012年における日本の印刷業にジャストフィットということになるが、本書に関する感想が各人各様で興味深い。
例えば、ある外資系印刷機械メーカーのマーケティング関係者は、年齢が私(57歳になりました)などよりぐっと若い。TwitterやFacebook等のソーシャルを生活の道具として活用しているのだが、印刷業界とのリンクが今一つピンと来ていないため、「未来を破壊する」が印刷業界にとっての本という認識・理解が難しいようである。つまり「印刷のことを話題にしているのに、書いてあるのはソーシャルメディアのことばかりじゃない」という違和感である。
私などは大昔(20年前)から、「ワンソースマルチユースが何とか実現できないか?」「印刷もコンテンツを出力するメディアのOne of them」という考え方をしていたので、「印刷の価値は?」と改めて聞かれても、それほど不自然には思わないのだが、印刷絶対という大前提で考えると「vs.的な発想(対立的発想)」になってしまうのだろう。
といいつつも・・・私は紙の手触り、インキのにおいが大好きなので、ずっと印刷から離れられないでいるのも事実であり、印刷業界がコンテンツをハンドリング、つまり情報をいかに伝えるかということをビジネスに出来ることばかり、この20年夢見ている次第である。
考えてみると、私のような人間は、まず形から入るようである。例えば大学受験の参考書にしても名著というモノに憧れて「誰々の物理B」「誰々の数Ⅲ」「歴史なら山川出版社」という具合で、参考書でありながら前書きや装丁にこだわったものである。しかし、当時から格好にはこだわらず、中身が理解できれば良いじゃないという人間も沢山いたのは事実である。名著という参考書より、問題集をいきなりやる連中である。色々なタイプがいるが、問題集を実践的にやる連中に成績の悪い人間はいなかったようだ。
それに反して私のように形にこだわる人間は、問題集だって竹内均監修(ここだけは実名でご勘弁を)の「傾向と対策(旺文社から出ていた受験問題集)」にこだわったりしているから、中身を解くより前書きを読んでいるようでは成績が上がるはずもない。
しかし、ソーシャルの世界では津田大介氏やソフトバンクの孫さんのようなスターは存在するが、名著と称される形式的なモノは存在しない。問題集のようにいきなり核心を突いた議論をするのである。実践的といえば実践的だが、形から入ることに慣れている人間にとっては、馴染めないかもしれない。
名著というのは、しっかり章立てが考えられていて、それを順番に勉強していけばより深い理解が得られるようになっているのだが、現在のソーシャルや電子書籍の世界では章をバラバラにしてしまい、関係あるところしか読まないということも普通のことなのである。
これは音楽関係でも顕著で、アナログ社会ではアルバムという一作品をデジタル社会では1曲1曲バラバラで販売してしまうのと一緒である。Abbey Roadを一作品と捉えるのは、今は昔のことのようである。
私のような人間には正直馴染めないが、学力を上げる(知識やスキルアップ)ためには、この方が効果があるのかもと認めざるを得ない。少し遠回りした例だったが、デジタル時代には格好つけてるよりは、実力をつけるのが一番ということなのだ。
さて、「未来を破壊する」では、常に印刷物の価値を読者に問いかけている。印刷物に良いところは沢山あり、一冊まとめて読んでこそ理解できること、感じられることも多いのだが、その為に犠牲になるものも少なくない。例えばコストだったり、手間暇だったり、スキルだったりである。冒頭に申し上げたようにこの和訳書は山口氏の情熱で出来上がっているので、山口氏の思い入れが強く入っている。
ソーシャルで良いモノを印刷で実現できないか?今まで無理だと思っていたことがこういう方法なら何とかなった!というなら、それをトライしているのである。この本の印刷製本を担当しているのは株式会社プラン という大村製本の関係会社である。
JAGATでも何回か紹介した ことがあるが、プロ用のデジタル印刷機の価格が高すぎるなら、コンシューマ用のプリンタを数多く揃えて、その欠点を補ってやれば、価格を押さえた手軽な印刷物が可能だろうという発想で、1台2万円程度のプリンタを何十台並列に揃えて印刷している。
インキが詰まるのが問題だったのを、集中タンクから各プリンタにチューブ(空気抜き装置装備)でインキを供給することで、安いインキをトラブル無く供給できるようになったのである。またコンシューマプリンタはオイル不要ということになってはいるが、あるベアリングにオイルを注すとその部品の持ちが違ったりするというノウハウを使って、同社は絵本の製作を行っている。そしてこの本もこのようなノウハウで印刷されているのだ。これも製本はお手の物という自信があってこそなので、印刷だけで勝負している印刷会社にはこの発想は難しいかもしれない。しかし、プランのような発想だとソーシャルメディアにも十分太刀打ちできる?共存できる!のである。
この本をJAGATの塚田司郎会長がJAGAT大会で紹介したところ、大きな反響があり、せっかくそのような反響があるのなら、熱気がある内にこの本の中身について徹底的に議論してみたいと考え、テキスト&グラフィックス研究会で取り上げることとした。
日時は2012年8月27日「徹底討論!『未来を破壊する』とは何か」 である。
もちろん問題点等には言及していくが、せっかくオフラインでのミーティングなので印刷業としての具体的な方策についても考えていきたい。
今回はこの本の中身(核心)については触れていないが、来週あたりには少し中身にも触れてみたい。その内容に少しでも反応していただいた方は、是非27日の研究会セミナー に参加いただきたい。
(研究調査部長 郡司秀明)
徹底討論!『未来を破壊する』とは何か
2012年08月27日(月) 14:00-16:00