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モチベーションの高さと維持の差が結果の差につながる
著・樺山琢磨氏
(原貴之労務事務所 産業カウンセラー・人事労務コンサルタント)
社員の人材教育が知識・技術教育偏重に陥ってはいないだろうか。取得した知識や技術が組織で生きるのも死ぬのも、本人の意識や働く環境などさまざまな内的、外的要因に大きく左右される。
大手印刷会社に長年勤務し、現在は人材キャリア開発の指導で活躍する樺山琢磨氏に意識教育の重要性に関して寄稿いただいた。
■モチベーションは生きている
「ただひとつ残念だったのは、自分たちの実力を100%出す術を知らなかったこと。それにどうにか気づいてもらおうと俺なりに4年間やってきた。時には励まし、時には怒鳴り、時には相手を怒らせてしまったこともあった。だが、メンバーには最後まで上手に伝えることは出来なかった」
これは、サッカーのワールドカップドイツ大会で1次リーグを勝ち抜けなかった際のジーコジャパンの有力メンバー中田選手のホームページ上でのコメントの一節である。
中田選手がサッカー技術ばかりでなく、言葉のマスターも早く、ヨーロッパであれだけ活躍してきたのはコミュニケーション力も高かったからだろう。だがそんな人から人の気持ちをつなぐことの難しさを聞こうとは思わなかった。
一方、今年の3月、ワールド・ベースボール・クラシックでの王ジャパンは信じられないことをやり遂げた。1次リーグの戦いぶりから3位すら考えられない状況で、幸運の女神がほほえんでくれたとは言え、2次リーグでは快進撃を続け「世界一」という栄光の冠を得たのだった。しかしこの栄光の裏には、ある日を境としてチームメンバーのひたむきな気持ちが生まれたことと王監督の熱意があったと伝えられている。王ジャパンチームのモチベーションの確立と維持が試合で結果を出したのである。
ジーコジャパンの選抜メンバーも王ジャパンの選手たちもそれぞれ日本のトップレベルの人たちで高い能力を保有している。ジーコジャパンも少なくとも1次リーグは突破できる戦力はもっていた。
その差はモチベーションを高め維持していくプロセスにあったのではないか。
成果を出していくには高い能力と幅広い知識、そして経験が必要なのはいうまでもない。しかし、だれにでもすぐに高められそうでうまくいかないのはモチベーションのアップと維持ではないだろうか。
■難しいのはモチベーションの維持
能力、知識、経験を駆使して人が仕事で結果を出す。その結果はモチベーションの高さによって変わってくる。こんな当たり前のことについて私たちは日常の中で、あまり関心を払わない。
モチベーションの特性には
①変化する ②意識するだけで変えられる
がある。モチベーションを高めるには、その気になれば大した時間はいらない。スキルを磨き上げる時間と努力に比べれば、わずかなものである。しかし、それでも必ずしもうまくいかない。油断をするとスルリと逃げていく。
モチベーションを構成する要素を、『なぜモチベーションが上がらないのか』(児玉光雄著、ソフトバンク新書)では、
1.才能・特技、2.ビジョン・目標、3.内的モチベーション、4.外的モチベーション、5.人間関係、6.環境設定の6つに分類している。
1.には「興味や関心、好奇心、自分が今まで積み重ねてきた経験なども含まれる。これらが生かされている時、人はやる気を感じる。興味のない仕事をやらされれば、当然、モチベーションが下がる」。2.は「チームやグループを率いて何かを目指す時、リーダーはゴールを明確に提示し、士気を高めなくてはならない」。3.は「自分の内面、心の中からわき上がるもの、与えられた範囲内で、できることを精いっぱいする意志を指す」。4.は「外部から与えられる。報酬、肩書き、評価、名誉など、自分ではコントロールできない」。5.は「単に部下をしかったり、ほめたりするのではなく、部下の性格を見極め、それぞれのモチベーションが高まるようなマネジメントを心がける必要がある」。6.は「集中力に直結する要素だ。目の前の仕事に没頭できるかどうかは、職場の環境、体調管理などにかかっている」。
■スキルの向上には「コーチ」を
モチベーションを高めるだけで、仕事の高い成果が得られることはなく、スキルの向上、知識の拡大、経験の積み重ねが必要である。そこでスキルの向上について考えたい。
印刷機のオペレーターは機械の機能を十分発揮させる技能と刷り上りの美しさの追求と二兎を追うことが必要だ。印刷機のスペックを最大限引き出せる人、生産量はそれほど上げられないが、品質が常に安定した刷りをする人など個性もある。しかし、プロである以上クライアントの指示を理解し、ニーズをくみ刷り上げなければならない。
まず、スキルの向上は必須である。しかし、日常業務が多忙だからと言って、外部の教育機関に通わせるのをためらうばかりでなく、社内での教育に時間を割くのが惜しいという経営者の声を聞く。オペレーターが社外教育で留守をすれば、彼の仕事内容がどのようなものか周囲の社員に分かる上にその空間をどのように埋めるか検討すれば新しい知恵が生まれてくるはずだ。
スポーツの世界では、本人の才能を引き出しそれを伸ばすコーチの役割が大きい。
コーチに基本を学びマスターした人にはかなわない。またプロにも好調の時、不調の時がある。その時は、ゴルファーならコーチに自分のスイングなどを見てもらい、基本からずれているところがあれば指摘を受け修正していくという。人間は勝手なところがあって、基本を習得したと思ってもどこかで自己流に流れていくのが常である。
印刷機のオペレーションについても同じで、自分は的確な操作と正しい手順で進めていると思っていても、自己流を優先し標準作業を外れていることがある。これも早い段階でコーチに当たる人が指摘し、修正を図るとともに、技能レベルを向上させていくことが望まれる。しかし、コーチはオペレーターの指導者であってはいけない。スキルの基本は教えるが、自分の意見・考えを押し付けてはいけない。基本に対してぶれている事実だけをオペレーターに伝え、まさに「鏡の役割」に徹することが能力を自律的にアップさせていく。
■社員の自己実現で会社体質を強化
印刷業を取り巻く環境は楽観できるものではない。売り上げを伸ばし、業績を確保したいと考える会社は、今こそ社員のスキルの向上に目を向けると同時に社員の個人としての成長も視野に入れた施策の実行が急務といえよう。
会社のすべての人材にその個性と能力を存分に発揮させ、ベクトルを同一方向に合わせモチベーションという推進力で動かして会社の力が発揮できるようになる。
印刷機械にはスペック回転数があり、それを超えることはできないが、人間の能力に限界はない。目的を本人が十分理解し、目標を設定し、本人の努力を会社が支援することが社員教育には大切だ。
教育修了後のフォローが社員教育の実りを左右する。教育あるいは研修で学んだことを実践できる雰囲気と職場環境を築いて、社員が成果を出し、それを誇りに思えばスキルの職場での水平展開も容易である。それには社員個人の自己実現と会社のビジョンをオーバーラップさせ、社員が自発的にスキル向上に向かい、自己啓発に身を入れ始めることがスタートであろう。
著・樺山琢磨氏
(原貴之労務事務所 産業カウンセラー・人事労務コンサルタント)




