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アップルからiPad の新型が発売された。新型iPad の最大の特徴はRetinaディスプレイという高精細モニターであり、文字等の再現性が格段に良くなっている。
Retina ディスプレイとは、iPhone4 で採用されたディスプレイのことで、元々「網膜」という意味の単語である。
iPhone4の場合の画面サイズは従来のiPhone3 やiPhone3GS と同じ3.5 インチのまま、960 × 640ピクセルと4 倍以上の解像度を実現している。このようにRetinaディスプレイの特徴は画面解像度の高さにある。1 ピクセルの幅が78 ミクロンと肉眼では見えない程度に小型化されている。
画素の大きさが78 ミクロンとは、CEPS(Color Electoric Prepress System、電子画像集版システム)時代に言われていた入稿画像の解像度が12.8 本/mm となり、大まかにはミリ13 本、つまり330dpiということができる。CEPS 時代は350dpi といってもフィルムから大きめのアパチャでスキャニングしていたので、デジタル時代に直せば350dpi で300dpi 相当、400dpi で350dpi くらいしかなかったと思う。
完全にベクトルベースでRetinaディスプレイに再現したら400dpi 相当以上の質感を持っているイメージだ。Retinaディスプレイとはまさしく人間の解像力に合ったディスプレイなのである。
「画像の必要入稿解像度はスクリーン線数の2 倍」というルールがある。85 線/inchの粗い網点の際には170dpi で入稿すれば良いということだ。しかし、実際はRIP演算の際のファイナルレゾ(CTPやプリンターのレゾ)が細かければ、350dpi と170dpi では明快な画質差が出てくるのだ。つまり元画像の解像度が高ければ、良い結果は得られる。簡単に説明すれば粗い網点もファイナルレゾが細かければ、網点がちぎれて文字や図形などの品質は格段に良くなるという理由である。
解像度の高いRetina ディスプレイは高精細化したデジカメ画像を見るディスプレイとしては最適なものだが、逆に新型iPadで粗い解像度の画像を表示すれば水増し品質になってしまい、かえってボケた印象を与えてしまうことにもなる。このようなことを理解していた印刷会社は紙でも品質差別化ビジネスで成功していただろうし、iPadでも独自の高品質を強みにビジネスができるのだ。
新型iPad のRetina ディスプレイは従来のiPad2 と同じ9.7 インチディスプレイを採用しつつも、解像度は2048 × 1536 ドットへと大幅に向上している。これまでのiPad の1024 × 768 ドットを4枚(縦2 ×横2)分並べたものを4倍の密度で押し込んでいるわけである。本体の厚みはやや増加して9.4mm となり、重量は約50g 増えて652g(Wi-Fiモデル)となっているため、可搬性は低下しているが、それを差し引いたとしても余りある高解像度ディスプレイがRetina だ。
Retinaディスプレイの表現力は、「一度観てしまうと元のiPad に戻れない」というように称賛されているが、まさにその通りだと思う。
電子書籍にはテキスト型と、漫画のように図版をそのまま貼り込んだ画像型の2 種類がある。テキスト型は今回の高解像度化の恩恵をすぐに受けられるわけだが、画像型の場合、元の解像度が低いと単純に水増しされて表示されるので、本当の意味でRetinaの恩恵を被ることはできない。
前述したように他の画像の解像度が高いと低い解像度のデータを水増しした画像がボケたように見えてしまうので、新型iPadの品質を生かすためには旧コンテンツの画像解像度を入力し直す必要がある。まだ歴史的な大ヒット電子書籍コンテンツがないので、これからのコンテンツということになるかもしれないが、Retinaディスプレイの特徴を生かし切るには高解像度画像が必要だ(とくに漫画は)。
タブレットとの関係性に変化も価格.com の「タブレット端末・PDA」の売り上げランキングは、新しいiPadの発売以降、新型iPadとiPad2 にほぼ独占されている。 この調子でRetina ディスプレイが普及すると電子ペーパーとの力関係にも影響を及ぼすだろう。従来のiPadであれば、「Kindle」や「Sony Reader」などのEインクの電子ペーパーと比較し、文字の見やすさ等で文句をつける人もいたが、Retina ディスプレイは、Eインクと比較しても遜色がないレベルになっている。また動画という 切り札(E インクは動画不可)もある。残ったEインクの特徴はバッテリーの持ちだけになってくる。
これについても今後の改良が期待でき、Retina ディスプレイの世界はもっと広がるに違いない。
(『JAGAT info』2012年5月号より)