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プリント

デザイン教育をどうする

掲載日: 2009年02月14日

デジタル時代のデザインには論理が重要

デジタル化、自動化の進展する中で、これからのデザイン教育で大事なことは何か、日本デザイン専門学校・講師の和田義徳氏に伺った。


多極化するメディア
かつては広範囲に宣伝活動を行う場合の主流は「印刷」でした。後にラジオやテレビが登場しても、この「印刷」の優位性はさして変化を受けなかったのです。しかし、印刷そのものがデジタル化され、Webが広告宣伝の大きな分野を占めるようになると変化が出てきました。またさらに、携帯電話の普及とともに「携帯サイト」と呼ばれる世界も広がってきています。いわばメディア(媒体)が多極化しているわけです。
また、デジタルでは一つのデジタル化されたソースがあれば※、同じものを印刷だけでなくWebやPDFや携帯サイトで使用することが可能です。
逆に言うと、制作にあたっては、それぞれのメディアの特徴をよく把握し、なぜこのメディアで発信するのかということを明確にしておかなくてはなりません。
※W3Cの勧告により既に現在普通に使用されているインターネットのブラウザなどはXHTMLに対応しています。XHTMLは「Extensible HyperText Markup Language」のことで、ビジネス分野で普及してきたXMLと互換性を持っています。XMLで記述されたデータやテキストやデータベースは、印刷でもWebでも利用が可能です。


大事になるほかのメディアとのリンク
このように多くのメディアが現れてきたのは事実ですが、「印刷」が優れたメディアであることに変わりはなく、また、ほかにはない独自の特徴や利点を多く備えています。ただ印刷を軸に業務を展開する場合であっても、こうしたほかのメディアとのリンクや有効利用、相乗効果などを考えなければ「有利な営業展開が行えず、お客様の満足も得られにくい」という、そんな時代になっているのです。逆を言えば、ここを押さえておけば有利に営業展開ができるはずだとも言えるでしょうか。
ほかのメディアを意識し、有効に活用したりリンクさせたりするということは、結果として、印刷物についても、その位置付けや正しい認識が改めて必要になってきます。
また、印刷とは切り離せないデザインや企画立案の方向性についても、深く知る必要が出てくるでしょう。確かに営業面、収支面からだけ見れば印刷物は一種の「商品」であると言えます。しかしお客様の側から見ると、印刷物は、市場や時期を考え、効果を期待して作成した貴重な情報を、確実にターゲットに届けるという重要な役割を担った、かなり複雑な情報の構築物なのです。しかもその成否が業績や今後の展開に大きく影響することも十分に考えられるのです。
そうした重要な「印刷物」を作成し提供する側は、当然のことながら内容をよく理解し、デザインや色調やコンセプトなどについても適切な説明やアドバイスができることが重要になってきます。


説明責任という考え方
二酸化炭素の問題など「環境」に対する関心が高まっています。ご存じのようにISOの14000シリーズはこの環境についての国際規格ですが、そこではよく「アカウンタビリティ」という言葉が出てきます。これは「説明責任」ということで、住民や社会から特に要求されなくても、企業には初めから説明する責任があるという意味です。さらに最近はCSR(CorporateSocia lResponsibility)という考え方も定着してきています。これは、文字どおり「企業の社会的責任」ということで、各企業は、自社が行っている社会活動や文化事業や貢献などを、広報活動を通じて社会に公表するようになってきています。単に説明責任にこたえるだけでなく、自分から積極的に発信してゆくことが求められていると言えるでしょう。
また、PL法の影響もあって、相当単純な用途の商品でも、使用法などについてこと細かに説明が記されるようになってきています。さて、そこで「印刷物」について再び考えてみましょう。前の項目で見たように「印刷物が重要な役割を負った複雑な情報の構築物」だとするならば、これを提供するわれわれには、当然のことながら非常に大きな説明責任があると考えるほうが自然ではないでしょうか。

論理的であることが要求される時代
説明責任を問われるまでもなく、デジタル化そして多メディア化と言われる時代では制作物に対して、客観的・論理的な説明が必要となります。なぜWebではなく、それを印刷物として作るのか、なぜその色であり、そのデザインなのか? 従来とは違って、これらの問いに適切にこたえることが求められているのです。
そして、適切に説明するためには、さかのぼって制作の初期段階から、論理的に方向を決定し、制作そのものも筋道立てて考えられたものでなくては、論理的に説明することは不可能です。
違う言い方をすれば、説明のためというより、説得力のある良い制作物を作るのには、最初から最後まで終始一貫した論理的な制作態度が必要なのです。従来はデザインや企画と言うと「感性」が大事と言われることが多かったように思いますが、現代は要求されるものがもっと精密になってきているのです。「感性」と呼ばれるものの中身は、実際には色彩や造形に関する知識や論理が身に着いているかどうかということです。さらにマーケティングの知識や論理、市場のあらましや、近未来予測など多くの知識や論理の総合として存在する少し複雑な知見を、説明しやすく「感性」と呼んだのだと思います。ただ、そういう呼び方をすることで結果的にあいまいさを容認することにつながってしまいました。改めてそういう意味での感性を否定し、プロとして真摯(しんし)に個別の知識を高めることが総合的なプロとしての力量を高め、結果として論理的な説得力も向上することにつながります。


評価能力とは
前項では良い制作物を作るのには「論理が必要」だと結論付けています。そしてまた「プロとして個別の知識を高めることが総合的なプロとしての力量を高め、論理的な説得力も向上する」と言っています。
企画立案だけに携わる場合でも、制作者としてデザイン作業を行う場合でも、営業マンとしてクライアントと交渉する場合でも、同じ「基礎的力量」が要求されるのです。「基礎的力量」の中身は前項でも言っているように「色彩や造形に関する知識や論理」に「マーケティングの知識や論理」などを加えたものです。そしてこの「基礎的力量」を活用すると企画面から見れば「企画立案力」が高まり、デザイン面から見れば「制作の力量」が上がります。営業面でも論理的説得力が高まり「営業力」が身に着きます。しかし、実は無意識のうちに高まるもう一つの能力があるのです。それが「評価能力」なのです。
制作やマーケティングにわたる論理的能力が高まると、制作物を見る目が変わってきます。そして制作物の良しあしも適切に指摘できるようになり、それを論理的に分かりやすく人に伝えたり、文書に仕上げたりすることもできるようになります。これを「評価能力」と呼んでいます。評価能力を高めるために基礎的力量が元になるわけですから、評価能力を高めるためには、上記の知識や論理を学ぶことが大事になります。実は評価能力と連動して高まるのが、聞き取り能力です。聞き取り能力は企画・デザイン分野だけでなくビジネス上、あるいは社会生活における大切な能力です。聞き上手は聞き出し上手と言われるように、質問能力なのです。クライアントに対して適切なヒアリングを通じて制作の目的、デザインの方向性など根幹部分を共有しなければなりません。コンセプトの確認は単なる色や形状の確認ではないので、先ほどからお話しているように基礎的力量によって大きく左右されます。
実践的に、デザインツールやパソコン(Mac)を巧みに使えるとそれに眼が行きがちになりますが、それは始めの1~2年で、いいデザイナー、またデザイン力を付け伸ばしていける人は基礎的力量をしっかり身に着けなければ顧客満足の高いものを提供できることはできません。現在を評して「情報・知識の時代」と呼んでいますが、デザインもまさに論理で組み立て描いていくものと言えるでしょう。