本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
自治体の広報紙でも電子書籍化が課題となっている。「広報ひらつか」の電子書籍化を担当しているローヤル企画の今西毅寿氏に、EPUB版広報紙制作の現状と課題を伺った。
「広報ひらつか」EPUB版制作の背景
平塚市は人口が26万人、東京駅から1時間の通勤圏内にある。
「広報ひらつか」は、8ページのタブロイド判で、月2回、約11万部を発行している。以前は新聞折込みで配布していたが、購読率が減少しているため、数年前から全戸ポスティング配布に切り換えた。平塚市の広報・情報政策課の担当者がInDesignでレイアウトを行い、印刷所にデータ入稿している。
広報紙は一軒に一部のため、家族全員が読むとは限らない。若い世代や市外から通勤、通学している人にも市の情報を確実に届けたいという課題があった。通勤・通学中にスマートフォンで閲覧できるようになれば、より多くの人に見てもらえる。このような背景から、2011年3月からEPUB版を発行した。
ローヤル企画では、数年前から電子書籍の情報収集や検証を行い、EPUBやXMDF、MCBookの制作やiPhone・iPadアプリの開発にも取り組んでいた。平塚市のケーブルテレビ局にブログサービスを提供している縁で、「広報ひらつか」EPUB版制作の依頼があり、開発・管理を担当することとなった。
電子書籍の制作方法
平塚市では以前から紙面PDFの配信は実施していた。しかし、紙面PDFをスマートフォンで読むのは、文字サイズも小さく、操作面でも実用レベルとは言えない。アプリ形式は制作コストの問題があること、特定メーカーの端末に依存することから相応しくない。
EPUBなら短納期で動画やリンクの設定も可能であり、端末依存の問題もない。こうして、EPUBを採用することになった。
「広報ひらつか」EPUB版の特徴として、目次機能、電話番号やメールアドレスとのリンク、YouTubeの動画とのリンク、担当課・施設のサイトへのリンクがある。
制作は月2回、月曜の夜にInDesignデータが入稿される。画像をPNG形式に変換し、目次を作成する。各ページはハンドコーディングしている。動画リンクの埋め込み、担当課・施設名や電話番号・メールアドレスは、一括変換でリンクを設定する。木曜日に校正用のデータを平塚市に送り、金曜の朝に配信を行っている。
神奈川県の自治体が広報紙EPUB版を配布するのは初めてであり、全国でもほとんど例がないようだ。また、スタート後には実際の読者からの意見を参考にして、iTunesのポッドキャスト配信を開始し、定期購読を促すようにした。
EPUB3への期待と今後の課題
現在、アンドロイド端末ではEPUB用ビューアーが複数存在し、ビューアーにより表示や操作方法が異なり、動画の埋め込みに関しても全てのビューアーで対応していない。どのビューアーでも同様に閲覧できるように、シンプルなレイアウトになるように作成している。また、現在は手作業でコーディングをしている。今後は自動化をしていかないと効率化が図れないだろう。
今後、EPUB3が策定されることによって、縦書きやルビなど日本語組版が加わり、表現の世界が広がるだろう。アクセシビリティの面でも音声読み上げができるようになり、視覚に障害を持った方にも楽しめる書籍が作れる。JavaScriptを組み込むことも可能になる。
3月に「広報ひらつか」の制作をしてから、案件が増えてきている。例えば、今まで紙で制作していた学会の資料などをペーパーレス化したいとき、PDFやWebで配布するのではなく、資料として検索性の高いEPUB形式に対応することを提案している。
DTPや印刷だけということではなく、印刷物や出版物のデータを一元管理し、電子書籍も提案できる体制にしていきたい。