デジタルサイネージの真実と将来
掲載日: 2009年02月06日
ITバブルと同じように広告メディアとしての期待が先走って進むとバブル崩壊に遭うのではないかという警告もあった。PAGE2009基調講演報告その2。
PAGE2009では展示でもセミナーコンファレンスでもデジタルサイネージを大きく取り扱ったので、このテーマで新たにPAGEに参加される方も増えた。ある意味ではトレンドなキーワードにもなっているが、かなり曖昧模糊としたビジネス分野で、捉えずらいと考えている方も多い。しかし電通でもOOHメディアという呼び方を使うようになって、デジタルサイネージは将来性のある広告媒体として期待をかけられる面もある。2月4日の基調講演A2
『デジタルサイネージの現状と未来』では海外の最新動向の話があって、2月5日は、C1セッション
『デジタルサイネージ活用による新たなビジネス』、G4セッション
『新しい広告デジタルサイネージの動向』が行われ、さまざまな角度から検討がされた。
では今後デジタルサイネージはどういう方向で進んでいくといえるのだろうか? 代表的な利用例を中心にしたC1セッションを報告しつつ、実像をつかんでみたい。まず誰でも知っているものにJR東日本の車両のドア上部にある「トレインチャンネル」がある。これらの媒体管理や広告代理を受け持つジェイアール東日本企画の山本孝氏は、交通広告の特徴として、任意のエリアで、高いリーチがあり、反復によって人に擦り込みができ、車中の時間は他メディアも想起させられ、また買い物行動に結びつきやすいというメリットがあり、その主体である印刷系メディアでは時間別の差し替えが困難、駅ごとに違うデザインを出すことが困難、今日創って明日掲示することは困難、取り外しの作業が必要、ゴミになるなどのデメリットがあることを指摘した。
広告クライアントのニーズとしては、朝はコーヒー・昼は健康飲料・夜はアルコールと広告表現を時間帯で差し替えたいとか、家電量販店などは特定駅だけ出したいというエリアの選択、pushだけでなくインタラクティブ性、ユーザの属性把握、などがあり、これは印刷メディアではできない。そこで『ネットワークメディア』を使って印刷系とのシナジー効果を出すとか、ネットワークメディア同士の連携というのを考えておられて、トレインチャンネルとか、新宿・渋谷のステーションチャンネル、静止画のデジタルポスター、実証実験で電子ペーパー、Suicaやケータイのタッチデバイスでのインタラクションなどの取り組みの紹介があった。
とりわけトレインチャンネルは今年16000画面ほどになり、毎週5000万人にリーチするほど大きなメディアになってきて、コンテンツの様式もだいたい安定してきている。コンテンツとCMの比率は半々で、だいたい平均乗車時間20分内外でロール編成されている。1コンテンツは駅から駅までに終わるように60秒で、CMも無音声・視認性を考慮した作り込みを行っていて、元がTV用でも手を入れて配信している。実際動画ぽいものよりも紙芝居風のものが主流になっているようだ。
パフォーマの岩田敬氏は、流通業、金融機関、官公庁、空港など我々が日常生活で目にするデジタルサイネージのコンテンツ制作のパイオニア的な方で、それらの事例を紹介しながらデジタルサイネージの導入後にどのような課題があるのか、それにどう対処していくのかを話された。例えば流通業でもピラミッドの頂点の階層の大会社なら、投資能力もあって店内に何十ものディスプレイパネルを置いて、コンテンツの制作もチラシと同様に日々外注することができるので同社はその業務を受注しておられるが、その下の層の会社は例えデジタルサイネージのハードをある時期に導入してもコンテンツ制作の外注予算がとれないとか、社内にAdobe製品のようなツールが使えてオーサリングができる能力の人材を抱えることもできないので困っている。
そこでAdobe製品が使えなくても、今パソコンを使える人ならば誰でも使える(はずの)MicrosoftOfficeレベルの操作でデジタルサイネージのコンテンツ素材の整理とか運用ができるツールが必要と考えて、PowerPointのプラグインでパーツやテンプレートの管理ができるアプリを開発して提供するようになった。PowerPointからmpg、Flashなどへの変換ツールも提供されていて、ほとんどの作業をPowerPointのメニューから操作できるようにした例をデモされた。これは単に素人向きというよりも、プロであっても非常に短時間で制作できるという点でも画期的だろう。
流通業の売り場の販促に必要な情報は刻々とダイナミックに変わるものなので、売り場の現場で情報のハンドリングができなければデジタルサイネージのハードウェアは持ち腐れになってしまう。PowerPointレベルならタイムセールなども簡単に対応できる。実際に見た感じでも、デジタルサイネージで細かい情報を表現することは無意味で、写真・名称・価格・コメント・ロゴというチラシの最小単位のようなものが2~3点を画面にいれるくらいなので、デザイン的にもPowerPointのテンプレートでまかなえるのは納得できる。
また日々コンテンツを作らずとも、POSデータからくる売れ筋ランキングを自動で表示するとか、売り場ごとに表示するなら「この商品を買う人は、これも買う」というものもPOSに基づいて出せる。可能性としてはデジタルサイネージがその場の状況・客の動線・関連購買の文脈にあわせてリアルタイムかつダイナミックにコンテンツを表示することはいっぱい考えられるが、今は通信やバックヤード・データベースなどにまだコストの壁が大きく立ちはだかっているという印象である。ただしこういったインフラやIT環境は確実によくなっていくので、やりがいのあるメディアであるといえる。
今の課題としては技術の陳腐化が激しいのでJR東日本企画では3年で回収できるくらいのビジネスモデルが必要であろうということで、現在はスケールメリットや他メディアとのシナジーに力を入れておられる。岩田氏はデジタルサイネージ単体でのペイが納得されにくい面もあり、営業時間外に店員に対してeラーニングできることなども訴求されている。吉井氏はロンドンの地下鉄でのデジタルサイネージの大量導入は避難案内など駅のインフラ部分としても投資されている旨の話があった。
トレインチャンネルも運行やドア開閉など必要な情報をキチンと伝えることに付随してコンテンツ・広告があるので成功していることを踏まえ、スピーカー全員が先に「広告モデルありき」ではなく、まず必要なことを伝えるメディアになることが先決で、それで人々が見る慣習ができた先に広告メディアとしての価値も生まれるということで合意した。とはいってもWebの歴史を見ても広告モデルで膨張してバブルがはじけたように、デジタルサイネージも広告メディアとしての期待が先走って進むと同じような目に遭うのではないかという警告もあった。