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オープンシステムの時代に『囲い込み』はあり得ない

掲載日: 2009年02月05日

PAGE2009基調講演報告。ビジネスが成長していくようなシステムを考えるのがもっとも重要。

画像データベースは古くて新しいテーマである。そもそもデジタルのスキャナシステムが登場した時から、レタッチ済の画像を蓄積しておいてマルチユースする考えや試みは多くあった。今日のデジタルカメラの時代ではなおさらのことで、個人がオンラインのストレージを無料で使えるご時世であるから、ビジネスシーンではさぞかし画像の活用がされているかと思いきや、なかなかビジネスにピッタリのものはないらしい。PAGE2009コンファレンス2月4日(水)基調講演A0のビジネスを推進するメディア戦略・戦術では、ミサワホームで画像データベースを企画構築運用した事例と、学習研究社がホストコンピュータからERPパッケージに切り替えた際に事業のコアである出版物の発注に至る業務を別に開発してくっつけた事例のお話があった。両者は全く別々の話のように思えるかもしれないが、どちらも非常に今日的なテーマで、両方が今後の行く先を暗示している。

ミサワホームの事例を話された西田昌史氏は、18年間ミサワホームで総合研究所・市場調査室にてデジタル入稿などに取り組まれ、高じてDTPエキスパートまで取得され、2000年から社内に画像データベースを構築し、写真資産の一元管理運用を確立、再現色範囲の規定、印刷会社との協業による品質管理を推進されてきた。これらの報告は過去のPAGEでお話されたこともあるが、今回は2007年からは新しいフェーズとして、画像データベースの延長上に業務知識の集積を目指したWebベースのシステムの構築と運用・普及に取り組まれている。冒頭の疑問のようになぜ/どの点で既存の画像データベースアプリがダメかが理解できたお話であった。

社内に非常に多くの画像があって、日常の営業活動にそれらが使われているにも関わらず、画像データベースを構築しただけでは速やかにコンテンツが貯まらず、社内用のカタログのような月刊電子マガジン『EMI』を発行することによって、社員がデータベースに画像を蓄積するようになったという。このEMIには毎月の追加画像の紹介や、新発売の部材情報、販売終了したものの写真などが載る。社員は自分の仕事がこのEMIに載っていないとマズいという方向になって、情報を入れるようになった。そもそも社内の業務知識はカタログに載っていないものは誰かの頭のなかにしかなく共有されないものなので、一元的に共有できるツールが意味を持つ。例えば販売終了アイテムの写真にはその旨の文言が載るので間違って使われてしまうことはなくなる。

この写真ベースの知識集約を発展させて、写真にカタログのようなタイトルやキャプション・説明文を簡単に入力し、デザインされたテンプレートを使ってキレイに見せる電子カタログKogumiが開発された。これは写真データベースをリンクし、その写真の属性情報を継承することで、写真と同様の分類で探せる。まだブラウザで見るだけのものなので、営業がプレゼンに使う素材にするためにPDF化なりの出力システムが必要になる。この運用・普及が今後の課題である。これらはあくまで利用する社員の視点で設計されている点が特徴で、また社員が一元化されたツールを使うことで企業としては業務のルール化とか個人のバラツキを防げる。

以上の話は、社内の情報を集約するために社内メディアを作ったという点と、写真がどういう目的で使われるのかということから情報管理・知識の集約にまで至るシステムの展開をしている点でユニークだ。当然これらの管理されている情報は印刷物の製作にもWebにも即使えるものだが、そういった情報の出口の事情だけを考えたのではなく、むしろ社内で情報を蓄積することが順調に行くようにいろいろ工夫してきたというのが、自家製システムの強みであろう。

学習研究社の伊達秀雄氏は経理部IT運用室室長という立場で、35年間にわたって手を加えながら使ってきたメインフレームの基幹システムを、最新のERPパッケージに一挙に切り替えたプロジェクトを引っ張ってこられた。しかしシステム部門が勝手に変えるのではなく、業務改革は社内の意識改革でもあるという点で、販売系を始め社内の各部署のプロジェクトとして取り組まれ、ERPを目立たせるのではなく業務のインフラ整備という形で今後の新規業務も効率的にできる基盤を作られた。

ホストコンピュータと今日のオープンシステムのギャップは技術も運用も思考方法もものすごいも差があるのだが、これらを段階的に行うとなると期間と費用が大きいので、ビッグバンと呼ぶらしいが、1年くらいで一挙に移行されている。しかし同社は雑誌だけでも70~80誌あるとのことで、それぞれが編集長の想いでいろいろな業務方法をとっていたので、それらから社内の標準的な業務のプロセスにもっていくというのは他の出版社ではなかなか考えがたいことだ。しかしメインフレーム及びそのベテランのリタイア時期という理由で今が切替時であったのだろう。

もうひとつは市販のERPパッケージはどこの会社でも共通するような業務にはよいが、出版物の製作システムのような特殊な部分で、その会社固有のノウハウであるようなところは用意されていない。これを追加発注するか別システムを作ってERPにつなぎあわせるかしなければならないが、こういった特殊な業務を理解してくれる開発会社がそもそもあまりない。そこで以前に同社の雑誌『TV LIFE』のシステムを作った方正が紙と資材、印刷加工などの費用見積から、発注までをトータルで管理するシステムを作ることになった。この開発は中国なのでオフショア値段というメリットもあるが、驚いたのはシステムのテストに20~30人の学生を割り当てて検証させたという話で、短期間でのシステム切替には強い味方という感じがする。

新システムの効果は想定どうりということであるが、それ以上に社内が最新のIT・ネットワーク環境になったことは、これからの新しい人が新しいビジネスのやり方を工夫していく上でも非常に重要なことであろう。今までの編集者が見積もりを求めても翌日に結果が出るものだったのが、雑誌の部数・コストのシミュレーションがリアルタイムにできるようになることで、編集者のビジネス感覚そのものが変わっていくだろう。また編集・制作の方法も新たなチャレンジができるようになる。特に雑誌の付録に特徴をつける場合には見積もりは非常に複雑になり判断が難しいものだが、そういった判断のリスクが減ることは商品の差別化もし易くなることだろう。

このケースの場合はERP化の期日が決まっていたトップダウンのプロジェクトで、ミサワホームのスパイラルに発展してきたボトムアップとは対照的ではあるが、両者とも組織レベルで内部の力を高めるためのシステム化であることは共通している。個別の印刷物などの結果をひとつひとつ単体で評価するだけでなく、その繰り返しをする中でビジネスが成長していくようなシステムを考えるのが印刷物発注者にとってもっとも重要な意識であることがわかる。だからオープンシステムの時代に『囲い込み』という方法は滅びていくだろう。

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