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そろそろ来年度の社員教育予算を決める時期がきた。厳しい経済環境が続くとたいていの企業が経営戦略やビジネスモデルの再構築を迫られ社員の教育予算を縮小・削減する。しかしながら知的資本である“人材”の育成を怠っては、業績の伸びは見込めない。
<企業教育実施状況>
厚生労働省の「平成22年度能力開発基本調査(注1)」によれば、企業の正社員に対する教育訓練の取り組み実施率は前年に比べ、OFF-JT67.1%(68.5%)、自己啓発支援62.2%(66.5%)と下がり、計画的OJT57.8%(57.2%)のみやや増加した。※( )内は前年度実績。
一方、正社員の教育訓練の方針は、社員を選別して教育するよりも、全体の能力を高めることを重視する企業が53.5%(前年49.5%)と5割を超えた。限られた予算の中で、全社員のレベル底上げを目的とした教育を実施する傾向が見られる。
そんな中、企業の教育担当者からは、よく①教育の必要性はわかるが、優先順位がつけにくい②対象者がいない③どんな研修がよいかわからない④対費用効果がつかみにくい等の悩みを聞く。教育体系に基づいた教育計画の下で、中・長期的に人材育成を実施している企業は、全企業の3割に満たないという。曖昧な計画下で、何となく同じような研修を同じような対象に実施しているだけでは、全社的効果は見込めない。
<全社的人材育成方針>
では、どうしたら教育計画を充実させることができるのか。まずは、経営方針や経営目標に基づき、自社に必要な人材像を明確にすることが大切だ。本来、人材育成は、採用~人事配置(異動)~人事評価まで一貫したフローの中で計画すべきだが、それが難しいとしても、せめて組織のメンバーとしての役割や能力について、期待する人物象を社内で共有しなければ、教育のゴールは設定しにくい。
<社内の現状把握>
次に社内の現状把握をできるだけ詳細に行う。過去5年間、どの部門でどんな教育をし、どのような人材が育ち、どのような業績に結び付いたか。必ずしも数値結果でなくともよい。役員、管理職から一般社員まで幅広くヒアリングする。そしてこれから先、全社的に、また各部門でどのような能力を持った人材が必要か、また育成すべきかを明らかにする。その際に重要なことは、人事部門と各部門責任者の意見のすり合わせだ。近年、能力開発の事業部・事業所主導の傾向が進んでいるが、中小規模の企業の場合、部門を超えた役割や協力体制が特に重要なため、人材に関する部門間の意見交換も欠かせない。実際、社内に教育委員会を設け、人事担当者主導の下、各部門から選ばれた社員代表と部門責任者のメンバー構成で、教育対象や内容を決め、試行錯誤しながら成果を出している企業もある。
<教育体系とモチベーション>
こうして、現在の教育体制と問題点、今後の課題や方向性を比較検討しながら、優先順位の高いものから教育計画に落とし込み、例えば2年周期で、全社的教育を実施するような体系を策定する。同時に忘れてならないのは、教育の受け手である社員の能動的姿勢、即ちモチベーションの観点だ。できれば、直属の上司から、参加する教育訓練プランが、自身のキャリアパスの中で、どのような意味と位置づけにあるか聞くことが望ましい。それが無理なら、会社を通じて受講した教育訓練について、社員に求められる能力または習得すべき能力を周知することが最低限必要だ。JAGATの研修参加アンケート回答では、研修テーマによって違いはあるものの、「事前に上司と受講の目的・目標について話し合った」は6割、「事前に目的や狙いを理解していた」は8割ほどだ。
また、先の厚生省の調査では、正社員が自己啓発を行った理由は、「現在の仕事に必要な知識・能力を身につけるため」が最も多く81.5%だった。以下「将来の仕事やキャリアアップに備えて」57.4%、「資格取得のため」33.4%と続く。教育訓練プランを企画する側は、常に社員のニーズや意欲を把握しておくことも、教育計画を成功させる大切な要素のひとつである。
注1:平成22年度能力開発基本調査(厚生労働省)
調査対象 ほぼ全産業
①企業:常用労働者が30人以上の約7,100企業(有効回答率約44%)
②事業所:常用労働者が30人以上いる会社の事業所 約6,700事業所(有効回答率約68%)
③個人:②の事業所で働く従業員のうち約20,600人(有効回答率約39%)
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