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ANAの事例は、電子書籍の一つの形でもあると同時に企業Webサイトの次の形としての可能性を感じた。アプリの中に動画もリンクも電子書籍もあり、ログインしてマイレージサービスにも直結するのである。
内容は、ANAのiPadアプリ「ANA Virtual Airport 」の制作事例である。
もともとANAはWebサイト価値ランキング (日本ブランド戦略研究所)にて、総合一位を獲得している。総合というのはWebサイト価値のことで、Webサイト価値は売上価値と情報価値の合計である。売上価値とは、Webサイト閲覧が売上に寄与しているかの指標。情報価値とはWebサイトへの訪問で顧客が知りたい情報を得られているかの指標。
ANAは売上価値ではダントツの一位だが、情報価値では一位ではない。ここを課題と捉えていて、どうするべきか模索していたという。
それで単純にスマートフォンアプリとか電子書籍とかの方向に行くのであれば、「翼の王国」を電子化して、それを本棚ぽく見せるなどして随時配信するという仕組みになるだろう。「ANA翼の王国」アプリとか。
だけど、ANAはアプローチとしては翼の王国に限らず、情報価値を高める方法を模索した。その経緯があって、「ANA Virtual Airport」がリリースされている。
起動してみるとシンプルながら美しいクリエイティブに、横にスクロールする(背景あわせて三層スクロールする)Airport。レスポンスも悪くない。
空港の中をさまようと、様々なコンテンツが配置されていることがわかる。もちろん翼の王国もある。他にも動画コンテンツが豊富。CMをはじめとしてWebサイトに載ってそうなコンテンツが並ぶ。
それから、Facebookへのリンクや、ブラウザが起動する外部ページへのリンクも。
クリエイティブはグルービジョンズである。この有名なデザイナー・ユニットはとても良い仕事をしているし、これのせいでパブ効果もあるに違いない。でも、「超大手がたっぷりのお金を使って圧倒的な良いものを作ったのでウチらとは縁遠い話だ」とは思ってはいられない。私が腹落ちしたのは、「これはWebアプリの一つの形だなあ」ということだった(これはiPadアプリですが)。
よくWebアプリのトピックとしては、アプリがWeb化して(HTML5でつくって)、ブラウザでアクセスして利用環境に左右されず、オフラインでも利用して…というような世の中図だ。間違いなくこっちの方向に進むという論調だ。
ANA Virtual Airportで感じたのは、これは電子書籍の一つの形でもあると同時に、これは企業Webサイトの次の形だろうなということだ。アプリの中に動画もリンクも電子書籍もある。ログインしてマイレージサービスにも直結する。
現状はネイティブアプリが反応速度などで利点があるだろう。でもANA Virtual Airportも、次の姿としてはコーポレートサイトと合体する方向に進むのではないか。
電子書籍の現状解としては色々と考えていくしかないと思うが、単なる電子化ではなく、電子コンテンツの周辺に他の要素を配置したりするのも一つのやり方とも感じた。
(JAGAT 研究調査部 木下智之 )
(PART I)電子書籍ビジネスの現実解を再検討する
~現状で見えている可能性と、「電子書籍ならでは」の模索~
開催日時:2011年11月25日(金) 14:00-16:00
会場:社団法人日本印刷技術協会 3Fセミナールーム