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印刷会社が「新たなビジネスモデル」を考えるとき、クロスメディア戦略が最大の課題となる。デジタルコンテンツの権利処理と新聞のデジタル化が参考になる。
■クロスメディアビジネスに不可欠な「権利処理」
電子書籍元年と言われた2010年には、どの業界が覇者となるかを巡って、出版社、印刷会社、デバイスメーカーなどの思惑が交錯した。最終的にはコンテンツの中身、魅力が決め手になるが、版面権をもつ印刷会社としては、これまでの資産を生かして、新ビジネスを考えたいところだ。その場合、著作権などの権利問題に関する十分な理解が必要になる。権利意識が先行している放送業界の話は、印刷業界にとっても参考になるだろう。
映像の著作権等権利処理業務のエキスパートであるシュヴァンの寺田遊氏は、コンテンツビジネスに不可欠なメディア戦略と著作権に関して、「デジタル化の波を先行してかぶってきた音楽・映像のマルチ展開のための権利処理のノウハウは、クロスメディアでのデジタルコンテンツ展開にも役に立つものです」と語っている。
クロスメディアで自在にデジタルコンテンツを展開するには、著作権(守り)と流通(攻め)の両軸のコントロールが必要で、それによって、紙の出版物→電子出版化、電子出版物→紙の出版化の2つのビジネスチャンスが見えてくる。
また、テレビ・ネット動画・電子書籍など、クラウド×ソーシャル時代に既になっているのに、放送業界ではマスメディアとしての番組作りに業界構造が最適化していて、業界の縦割りから抜け出せていない。テレビ局と制作会社の関係においても、権利ビジネスの窓口を握るのはテレビ局で、制作会社は演出に特化したことで受注産業となっている。このような現状に対して、寺田氏は「新大陸に生き残りをかける会社以外は淘汰されつつある」と見ている。
東日本大震災では、NHKのニュース画像が動画配信サイトUstreamで流されたことに対して、NHKの一担当者がTwitterで容認して、ただし個人の独断なので後で責任を取ると発言し、その後公式に配信が認められたことが話題になった。マスメディアとソーシャルメディアの融合は時代の要請と言えるだろう。
■新聞ビジネスのデジタル化は、ジャーナリズムも変化させるのか
朝日新聞社発行の月刊誌『Journalism(ジャーナリズム)』9月号で、立命館大学の奥村信幸準教授は、「新聞やテレビなどの伝統的メディアの体力が低下する中、ネットでは洪水のような情報が飛び交う。その一方で人々は怠惰になり、その大量の情報の中から確かなものを選別する方法がわからなくなっていく……。
しかし、今年3月11日の東日本大震災と東京電力福島第一原発事故、それに続く放射能汚染の拡散という事態に直面した私たちは、ニュースの信頼性が命や安全という問題に直結していることを肌で感じたのではないか」とし、ニュースが断片化して拡散する中で、その検証や選別が受け手にも求められることを示した。さらに、ニュースの体裁を装って広まる「似非ジャーナリズム」を見抜く必要性にも言及している。
朝日新聞は5月18日に有料の電子版サービス『朝日新聞デジタル』を創刊した。Journalism誌編集部の服部桂氏は、「新聞社全体が今後はデジタルに」という方向性にあるが、「横に情報をシェアする」インターネットの特性と、「縦に情報が流れる」新聞との違いを指摘、Twitterなどはデマもあるが間違った情報が固定化せずに正すことができる点を評価している。ちなみに、朝日新聞社会部のTwitterでは、社会部の記者が一つひとつ確認した上で、東日本大震災の被災者向けの情報や被災者支援に関わる情報を発信している。
服部氏は、ネットの興隆→読者・視聴者離れ→広告減収→ビジネスモデルの破綻という厳しい現状を受けて、ジャーナリズムとビジネスに関して「きれいごとは言っていられないが、何をしてもいいのか?」と、各メディアが更なる変化・対応を求められていくことを示唆している。
服部氏が選んだマクルーハン100の言葉『マクルーハンはメッセージ』には、現在のメディアビジネスに通じる数々の箴言が散りばめられている。
no.40
情報とエンターテインメントの二分法は終わった。
no.50
新しいメディアは人と自然の架け橋なのではなく、それ自身が自然なのだ。
no.68
テレビは危機のときだけ奉仕のメディアになる。
no.82
今日ではビジネスのビジネスが、不断に新しいビジネスを発明している。
no.85
プライバシーの侵害は、いまでは最大の知識産業だ。
■締め切り迫る!
【2011年10月14日(金)開催】
映像の著作権等権利処理業務のエキスパートである寺田遊氏と
マクルーハンの研究者としても知られる服部桂氏がスピーカーを務める
「次世代ビジネスモデル・フォーラム2011」
クラウド×ソーシャル時代の新ビジネスモデル