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美術出版社が発行している月刊誌『美術手帖』は、2011年8月より電子書籍版の公開を開始し、公開後1ヶ月あまりで1万ビューを達成した。同誌ではユーザーが誌面上で自由につぶやける独自の電子書籍ビューア「bookpic」を採用している。今回は、bookpicを開発した美術出版ネットワークスの北岡氏、竹内氏、神蔵氏に開発背景や今後の展望などについて話を伺った。
HTML5版の電子書籍ビューア「bookpic」
「bookpic」の特徴は、ユーザー同士がコミュニケーションできるようTwitterやFacebookと連携している点である。雑誌を閲覧しているユーザーが、あるページの内容に関してコメントをすると誌面上に表示されるのと同時にTwitter上に反映され、ツイート内のURLをクリックすると同じページが見られる。もともとはAndroidアプリとして開発されていたサービスであったが、8月にブラウザ版としてリリースした。
アプリとして提供される電子書籍ビューアも少なくないなか、なぜ次ステップとしてiPhone/iPadアプリではなくブラウザ版を開発したのか。App Storeでアプリを提供する場合、決済方法や価格決定などに制約があるほか一定期間の審査期間がかかるなど、自社の自由度が低くなる。またユーザーも限られる。同社では、アプリと同等の機能が実現できるHTML5が普及し始めたタイミングもあり、より幅広いユーザー層にリーチできるブラウザ版での提供を選択した。
電子雑誌をスタートすることで、今後ビジネスをプラスに導くことができるだろうか。『美術手帖』は現在パイロット版としての提供であるが、将来的には雑誌の全ページ版の有料販売も予定している。またビューアそのものを収益源として、フリーペーパーの掲載による広告収入、誌面に掲載している広告のデジタル版掲載、サイト上のバナー掲出による収入なども考えているという。
現在は40ページ程度を無料ページとして公開しているが、誌面内容を公開することによる紙媒体への影響はどのように考えているのだろうか。いまのところは無料公開している雑誌でも売上げが伸びているものと減っているもの、両方あるので一概に無料ページ公開が販売にマイナスにはなっていないのではないかと見ている。しかし今後は公開ページ数を減らすなどの検討をしていく予定であるという。
同社では、bookpicを電子書籍ビューアとしてだけではなく他のWebサイトとのハブとして、コンテンツをより面白くできる場所にしていきたいと考えている。ユーザーに利用してもらえる場づくりのひとつとして、今後は自分が撮った写真をアルバムのように束ねて公開できる写真共有サイトもリリースする予定であり、将来的にはセルフパブリッシングなどにも取り組みたいという。
電子書籍版美術手帖のページサンプル
2011年10月28日(金) 14:00-16:20(受付開始:13:30より)
【電子書籍ビジネス事例研究(1)】出版社が低コストで参加しやすい制作システムを提供するブックパブ、新たな顧客層を開拓したハーレクイン、フリーペーパーに新たな価値を生み出した「ANA Virtual Airport」の事例を取り上げる。
(クロスメディア研究会 中狭 亜矢)