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競争環境が厳しさを増すなか、原価管理への関心が今まで以上に高まってきている。原価管理を実践するうえで、つまずきやすいポイントをQ&A形式にまとめて紹介する。
(1)標準原価を設定しているが、営業からその価格では他社との競争に勝てないと言われる。
どんぶり勘定では収益の確保がおぼつかないので、自社の原価を把握し過度の価格競争に巻き込まれないようにする、というのが標準原価設定の大きな意義です。
自社の売価に根拠がない⇒標準原価を設定しよう⇒設定価格では仕事が取れない⇒標準原価を下げよう、というように簡単にぐらついてしまっては標準原価の意味がありません。
一方で、仕事量を確保しなければ経営が成り立たないのも事実です。標準原価をうまく運用している会社では、標準原価を複数設定してケースバイケースで使い分けている例が見られます。例えば、毎月定期的に入る仕事で、年間○○万通しの仕事量がある。この得意先はコスト要求は厳しいけれど品質要求はゆるい。この得意先はいつもきっちりスケジュールを守ってくれるなど。要は根拠や目的が明確で、そのことが仕事を請ける前に把握できていることが肝要です。ルールを守ることが目的ではなく、利益を上げることが目的なので、柔軟な運用でかまいません。
悪いのはなんとなくなし崩し的に標準原価を下げてしまうことです。最初は理由が明確な場合に限られていたものが、だんだん形骸化していって「今回もよろしく」で済ませてしまう。
また、数字上、赤を出すとかっこがつかないので、数字をこねくりまわして黒にしたり、現場が気をつかってコストをつけなかったりするケースを目にすることもあります。これをすると数字が信用できなくなります。「ありのままの正しい数字」を出して、その対処を社員全員で考えることが重要です。
(2)コストダウンの成果を反映して標準原価を下げた場合、値段が取れている既存の仕事の売価まで値下げしてしまわないかどうか心配
営業マンの評価指標を"売上"一辺倒から"売上"と"収益"のバランスをみるようにシフトしていけば安易な値下げはなくなります。社内製造原価まで含めた受注一品別の差益が把握できなくとも、売上から材料費(用紙代)と外注費を除いた加工高とその対売上比率をみれば、大まかな収益性はつかめます。売上金額が大きくても総外注しているような仕事は会社への貢献度は低くなる傾向にあります。
(3)受注一品別の収益を社員に公開した場合、いろいろ物議をかもすことにならないだろうか。
"他人事"である限り、改善の方向には動きません。正しい数字を公開し、もしその数字に異議があれば積極的に議論し、より精度を高めたり、より実態に近づける調整をしていきます。むしろ、数字を示しても反応が薄いことのほうが問題です。会議で問題提起しても、行動が伴わずに"そのまま放置"されて、翌月の会議で、また同じような指摘をしての繰り返しでは意味がありません。そうならないためには、なるべくリアルタイムに近いかたちで、集計結果だけでなく受注一品単位での"見える化"がポイントとなります。こうして問題を顕在化させたうえで、改善のためのアクションをとることになります。
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