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音楽雑誌「Jazz Japan」の電子版制作に携わっているCMパンチ佐々木氏に、電子書籍について話を伺った。
有限会社CMパンチ 代表取締役 佐々木 康彦氏
2010年は電子書籍元年と言われたが、日本においてはデバイス主導で始まった話だと思っている。国内では携帯電話向けに約600億円の市場がすでに存在していたが、新たなデバイスの登場でガラケー(既存の携帯電話端末)では反応しなかった層、つまり携帯電話の中で小説を読もうとは思わなかった世代が、iPhoneやiPadの画面の中でなら読んでもいいかなと思い始めたのである。
しかし、現場では「電子書籍って何なの?」というところから話が始まる。お客様がイメージしている電子書籍は、PDFやXMDF、ドットブック(.book)、ケータイ向け電子書籍など様々であるため、制作を請け負う立場の人や印刷会社のディレクターは、そのコンテクストが合うような打ち合わせをしていく能力を営業窓口の知識として持っていなければならないところであろう。
「電子書籍」という言葉が先行し、よく分からないままに「電子書籍元年」と言われている事の危うさ、そして、案件を頼む側、頼まれる側の認識のズレがそのままボタンの掛け違いになってビジネス上のトラブルになることも今後はあると考えている。
では、お客様から実際に電子書籍をやりたいと依頼されたら、どのように要件を整理したらよいのであろうか。
まず表示における分類がある。テキストデータを扱うもの、レンダリングをして画像データになっているもの、テキストと画像の両方を持つハイブリッドのもの。それから、コンテンツ提供方法における大分類がある。その他、アプリの種類などで大別する場合によく出てくる名前を覚えておくと商談の場では、話しが進みやすく苦労しない。
電子化のポイントとしては、お客様にどういう体験をさせるのかというユーザエクスペリエンスの話になる。ビジュアル面でのインパクト(回転できる、動画と音声の組み合わせ等)、文書内検索、ブックマーク、ソーシャルネットワーク連携、縦書きテキスト、書棚横断検索など、どういう機能を持たせるかということが、その案件においてゴールとして適切なのかということになる。
雑誌は、発行して2ヶ月目以降はバックナンバーになり、書店から戻ってきて廃棄される。しかし、出版社がオンラインにデータを置くことによって雑誌におけるロングテールのビジネスモデルを立ち上げることが可能になった。
「週刊ダイヤモンド」がiPadで過去の特集記事を読めるように1部300円で売り出したことは、制作が簡単で利益率が高い出版の新しいビジネスモデルの事例となった。JPEGファイルが圧縮されて入っている形のものをサーバーからダウンロードして34ページが300円、ページ単価では8.8円である。在庫切れが発生せず、わずかでも売上げが発生する可能性があるという観点で、Amazon以外でもロングテール活用が可能というまさにモデルケースである。 雑誌という媒体で考えた場合、2ヶ月後以降はほとんど利益を生み出さなかったものが、デジタルのファイルが勝手に売上をあげてくれるという、いい商売なのではないだろうか。
EPUBでの電子書籍でいえば、阪急コミュニケーションズが出版した「20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学 集中講義」のプロモーションで無料配布したのが、日本でのEPUB形式でのプロモーション事例の一番手である。カトキチが社名変更したテーブルマークでは、Appleのポッドキャスト機能を使って、「今月のオススメレシピ」や「キャラクター弁当」などの情報をEPUB配信した。毎月、自動的にiBooksの中にデータが入ってくるため、定期的にコンテンツを配布したいクライアントには最適なモデルである。
また、ホンダでは自社のバイクの特集記事を抜き刷りのようにして自社サイトからEPUBの記事として配信している。今までは雑誌の中でしか接触がなかった人たちに向けて広告の接触面を増やすために、メーカーがWebとEPUBで雑誌記事を再配布した事例で、プロモーションとして提案するには非常に向いている形態である。
我々も現在、電子版雑誌「JazzJapan」の有料販売を開始して、制作と有料販売の仕組みのモデルを動かしているところである。
(クロスメディア研究会会報『VEHICLE』より一部抜粋・編集。全文は研究会会員向けに公開)
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