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プロ用の印刷には縁がないと思われていた、1台数万円程度のインクジェットプリンタも少し工夫すれば立派な生産機として使用できる。
東日本大震災は、印刷業界を根本から変えるかもしれない大惨事である。太平洋側の生産工場がことごとく被災し、印刷業界に関しても紙不足やインキ不足で騒いだのは記憶に新しい。
「騒いだのは」と過去形を使わせていただいたのは、現在の紙不足は一部を除いて随分落ち着いてきたという感じだからだ。もちろん中国からの緊急輸入に頼ったから「満足のいく品質の紙は、まだまだ品不足だ」というのが現実だろう。しかし、この震災により需要が冷えてしまっているので、紙もインキもダブつき気味になり始めているというのも、一面では正しいといえる。
さて、言いたかったのは紙の供給量の話ではなく、この震災が印刷を取り巻く環境や価値観を変えそう(変えてしまう)なのは確かだろう。印刷需要の冷え込みは一時的なものではなく、若干回復はしても一旦印刷しなくても特に問題になることがなければ、そう簡単には回復しない。
一時通販業界で通販カタログをWebに置き換えることが流行ったが、これに関しては売上高自体が大きく落ち込み、紙のカタログの重要性を証明した結果に終わったのだが、今回の落ち込みは印刷の価値を冷静に評価される材料として使われかねない。
つまり、今回の震災による影響は落ち込みが完全に元に戻るというより、印刷発注者にとってより適正価値のある方向の印刷物提供にシフトするということである。その中で確実に言えるのは「多品種小ロット生産」であり、この傾向は今後ものすごい勢いで加速するものと予測される。
しかし、多品種小ロットと簡単にいうが、商売の単価が著しく小さくなるということであり、普通に考えれば儲けの幅も小さくなるということである。儲けが小さくなるということは、数多くの仕事(ロット)をこなさなければ額は上がらないということで、印刷業の人たちも、印刷機メーカーやベンダーの人たちも漠然とこんなことを考えているのだろう。
だが、よくよく考えてみればこれはなかなかの難問である。普通の思考方法で考えればロット単価の利益を上げる方が遥かに理にかなっている。それでは利益を上げるためにはロット単価を上げるか、コストを下げるしかない。もちろん単価は上げられないのでコストを下げるということに集約してくるのだが、ここでネックになるのがデジタル印刷機の価格で、このご時世には高過ぎるのである。
メーカーの方もこの辺は承知していて、低価格機にターゲットを絞っているのが最近のデジタル印刷市場である。しかし、まだまだ高いのが正直なところであり、コンシューマ機との中間くらいに位置する安価だが遅いプリンタを使う印刷会社も増えている。
本日紹介しようとしているのは、1台2・3万円のコンシューマ用のプリンタを改造して絵本やマニュアル、写真集、報告書を作成している株式会社プランという会社だ。プランは大村製本株式会社 の子会社であり、埼玉の工業団地に印刷工場兼研究部門にコンシューマ向けのインクジェットプリンタを数十台並べて生産を行っている。
1台3万円のプリンタを100台用意したって300万円であり、少々生産性が遅かろうが遅い分付く担当者も数十台に一人で良いわけだから、多品種小ロットというキーワードには打ってつけなのである。
もちろん日本には二大プリンタメーカーがあり、プランが内緒で改造しているわけではなく、メーカーの了承の下部品供給もしてもらっているということである。
しかし、コンシューマ機を24時間稼働させると、ガタはきやすいのも事実だ。ガタがくる部分、つまりすり減ってくる部品は決まってくるので、肝心な部品だけ高いものに変更するだけで信頼性が増したり、通常カートリッジでインキが提供されているが、それを改造してタンクから各プリンタにチューブで一括供給してやると、インキが詰まりにくくなるし、インキ代も大幅に安くなり、生産機にずっと近づくわけである。(インキのタンク買いは驚くほど安価)
そのチューブに気泡抜きを付けてやれば益々インキはつまらなくなり、生産性は増すわけだ。インキに混ぜ物(普通考えられないような薬品を混入するらしい?)をするともっと詰まらなくなるということであり、ここまでやると十分採算に乗ってくるビジネスに発展する。
かつての印刷業、製版業は機械自体も開発したり、独自の生産技術までも開発していたのだが、いつの間にかどこでも同じ機械を使用する典型的な装置型産業になってしまったが、このコンシューマ機による小ロット印刷ビジネスなど、中々進まないデジタル印刷に良い刺激になる事例だと思う。6月30日にテキスト&グラフィックス研究会でこのことを取り上げるので、是非参加してみてください。
株式会社プランでは生産が手いっぱいになってしまい、パートナーも広く募集中ということなので、新しいビジネス構築のヒントも必ずや掴めると思います。またコンシューマ用(ハイエンドコンシューマかな?)のスキャナを改造して精度を上げ、フィルム置き版をデジタル化するための入力スキャナ化もしており、コミック等には最適なはずである。(文責:研究調査部 郡司秀明)
コンシューマ向けインクジェットプリンタによるデジタル印刷ビジネス
2011年6月30日(木)14:00-16:00
コンシューマ向けプリンタを活用して業務レベルの出版ビジネスを実現している事例を紹介する。