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今後の電子出版の表現について、活発な議論がおこなわれた。
2011年5月30日、「次世代電子出版とWeb 表現技術フォーラム in 東京」 <Tokyo Forum on the Future CSS Asian Text Layout>というイベントが開催された。
開催主旨には、「『電子出版』に関わる方々や 『Web』を中心としたコンテンツフォーマットの技術開発・標準規格化に携わる方々が、Web表現技術の課題と進むべき方向性について議論を行う」とある。
Webのレイアウト技術であり、EPUBが参照する規格であるCSSに関して、日本のユーザー側の状況や要望、現状の課題を反映させるためのフォーラムだった。
比較的地味なテーマにもかかわらず、月曜の朝9:00から19:00まで、100数十名規模の会場はほぼ満席であったし、たいへん活発なディスカッションがおこなわれた。
「EPUB」セッションでは、平塚市が広報誌のEPUB版を製作・発行している事例が紹介されていた。スマートフォンやタブレッットPCでも手軽に広報誌に触れてもらうために発行を始めたと言う。広報誌はInDesignで製作しているが、EPUB書出し機能は使用せず、ハンドコーディングしているとのことであった。また、凸版印刷の田原氏は今後のEPUBの課題として、「○字×○行」といったレイアウト指示ができること、「割注」機能、外字・異体字対応の強化を挙げていた。
「CSSによる日本語レイアウト」セッションでは、Adobe InDesignの日本語組版機能の開発者であるナット・マッカリー氏が、仮想ボディとセンター揃えを基準にしたInDesignの基本的な動作とベースライン揃えであるCSSの違いを解説された。また、シャープの齋鹿氏がXMDFフォーマット、ボイジャーの小池氏がドットブック形式について解説されていた。
「ユースケースセッション」として、「雑誌・新聞から見た表現の課題」が取り上げられた。電機大出版局の植村氏は、電子書籍は文芸書だけでなく雑誌や辞書などを含めて注目すべきであること、電子書籍の送り手・受け手の中心となるのはデジタルに抵抗のない世代であることなどを語られた。また、朝日新聞社の有料配信サービス「朝日新聞デジタル」やインプレスR&Dの電子雑誌「OnDeck」、毎日コミュニケーションズの「eBookジャーナル」について紹介された。
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書籍や雑誌・新聞など日本の出版物は、長い時間をかけて版式・版型やレイアウトが固まって、今日のスタイルが確立してきた。しかし、電子書籍や電子出版において、従来の出版印刷をすべて再現する必要はないだろう。
たとえば、電子版で「割注」や「脚注」を再現する必要があるのか、ポップアップのような機能のほうが良いのか、実際に使用される機会が多いのは何か、一概に言うことはできない。
どの程度のものがあれば適切なのか、現時点ではその答えは誰にも判らない。結局、よく使われるものとして定着するにはある程度の経験や時間が必要となる。
これまでに公開の場で組版レイアウトに関する活発な議論がおこなわれたことは、それほど多くなかっただろう。さまざまな立場の方々が一堂に会して、議論がおこなわれたことは、たいへん意義深いことであった。今後、より多くの方々がこのような場で意見交換されることを期待したい。
(JAGAT 研究調査部 千葉 弘幸)
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