本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
西日本最大の印刷関連展示会であるJP2011展(2011年5月12日~5月14日(土)、インテックス大阪)に合わせて「JAGATカンファレンスin JP」を開催した。初めての試みだったが、関西らしく積極的な質疑応答も見られ、大成功に終わることができた。
東北大震災の影響が紙だけではなく、インキの供給体制にも影響を及ぼし、加えてガソリン価格高騰と三重苦四重苦の問題が印刷業界を襲っている今、くじけてばかりはいられない。
「元気を出そう!関西から」、「関西の印刷業界から元気を出そうではありませんか」を合言葉にカンファレンスは行われた。
初日の5月12日の「電子書籍DAY」は前半の「我、電子書籍の抵抗勢力たらんと欲す」と後半の「すぐわかるEPUBと電子書籍」の二本で構成され、一日で電子書籍ビジネスというものを正確に理解していただけるように企画されている。
前半の「我、電子書籍の抵抗勢力たらんと欲す」は、中西印刷の中西秀彦専務の名調子に終始したが、震災後の紙不足とインキ不足がどうも電子書籍を推進しそうな状況の中、印刷業界としてどう対処し、どのような準備をすべきなのかにフォーカスした内容だった。
ただ、中西氏が「電子書籍の抵抗勢力になるしかない」と力説していることに皆さんが頷き過ぎていたので、それを真に受けないよう中西氏自ら「本当に抵抗だけしていたら会社はつぶれちゃいますよ」と注釈を入れたくらいで、少々不安の残る面も見られた。
電子書籍を単に毛嫌いするだけでは紙の仕事もなくなってしまう。その準備のための抵抗・時間稼ぎであり、どのように上手く印刷業界に電子書籍ビジネスを取り込むか?という点が大事なんだというポイントを中西氏は繰り返し力説されていた。
電子書籍用のEPUB制作だけでは今の売り上げを維持するのは困難で、デジタル印刷と電子書籍のリンクビジネスが一番現実的ではないかというのが氏の提案である。
後半の「すぐわかるEPUBと電子書籍」は、定評あるインストラクターの境祐司氏の電子書籍の作り方セミナーである。ビジネス概論的な話を聞くのも有益だが、具体的なEPUBについてのハウツーをしっかり理解するのも大切なことである。
今まで境氏はInDesignから吐き出されたEPUBをフリーエディターのSigilでエディットする方法を進めていたのだが、InDesign CS5.5になってAdobe方式のEPUB生成方法を伝道しだしたのは大きなマイルストーンである。
二日目の「デジタル印刷DAY」は単なるオフセットとの比較論ではない。デジタル印刷の原点に立ち返り、「PODとは?」を問いかけたものである。
PODの味方になるツールとして、インターネットだったり、コンビニだったり、KIOSKだったりと具体例を挙げて説明していた。ポイントはユーザーに近いところで印刷するということであり、それがPODの必要条件となる。それを実践しているのが前半「デジタル印刷で成功する条件」のネットスクウエアであり、講師の浦上氏はキンコーズを立ち上げた経験もお持ちで、文字通り酸いも甘いも噛み分けた方である。
ネットスクエアが実践している「ネットで注文、駅でピックアップ♪」は実に合理的なシステムである。コラボレーション先がJR西日本なので新幹線の中でプレゼン資料を作成し、新幹線のネットで注文し、新大阪でピックアップという構図が難なく出来上がってしまうのだ。
そして後半「POD その場で出来る印刷・製本」はエスプレッソシステム(簡易型印刷・製本一環システム)を使用したお店で印刷・製本するビジネスについて、極々基本的なデマンドを説明してくれた。
印刷から見ると少々簡易すぎるように見える機械でも、一冊からボタンを押せば本が出来てくるというシステムは欲しいんだということを訴えられていた。
三日目は「印刷ビジネスDAY」であり、JAGATが長年調査し続けている印刷市場、特に2011年の景気動向について分析した内容である。前半の「2011年印刷市場展望」では電通総研の井上氏から広告市場動向にコメントをいただいたが、未曽有の大惨事のあった2011年度も広告市場は回復の兆しを見せているのが救いである。
具体的なビジネス関心事として印刷通販のネット戦略にフォーカスしたのが、「印刷会社のネット戦略」である。講師は業界初のB to Bサイトを立ち上げた株式会社シーティーイーの藤田社長と印刷通販の草分け的存在の株式会社グラフィックの竹村店長である。シーティーイーの場合はクラウド的なメリットを最大限利用しているが、コンシューマーまで相手にしているグラフィック社は、いかに多くのお客様がHPに来てくれるかがポイントで、グラフィック社ならではのTIPS集やマニュアル類などを充実させている。
三日間のカンファレンスに共通したことは、設備があってもビジネスが成功するとは限らないということであり、デジタル印刷機を持っているのなら電子書籍用の印刷をするとか、総合的に仕事を請け負うことが出来て初めてビジネス的に成功するということである。
印刷通販でいえば価格だけを安くしてもリピートは絶対来ない。つまりビジネスは成功しないのだ。素人にも分りやすい印刷の見本帳やデザイン帳、色見本帳などのビジネスツールを取り揃え、そして相談窓口も充実してビジネスが出来るということである。印刷通販というと、印刷業界からは反発を食う内容だが、セミナーが終わってからも真剣に質疑応答が続き、それも老舗の印刷会社からという具合で、時代は明らかに変わっている。
(文責:郡司秀明)