本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
XYZカメラとは、デジタルカメラの光学フィルターにCIE XYZ等色関数と等価となるようなフィルターを実装することにより、人間の視覚の全色域を記録することができるカメラである。
人間の眼が認識できる色域は、馬蹄形の図でおなじみのCIExy色度図で表現されることが多い。AdobeRGBやsRGBのカラースペースは馬蹄形のなかにすっぽりと入り、色域外の色は三角形の内部に追い込まれる形となる。CMSの利用により見た目を合わせたとしても正確な色情報は失われてしまう。一方で、XYZカメラは馬蹄形の全域を正確に記録できるという特徴があり、美術品や工芸品のアーカイブ用途や遠隔医療などの分野での利用が期待されている。
ここでは、XYZカメラの特長について紹介する。
人間の目は、赤み・緑み・青みの3 つの色を感じることで物体の色情報を得ているが、この3 つをX(赤み)・Y(緑み)・Z(青み)と呼んでいる。赤み・緑み・青みを感じる錐体自体の物理特性と生理的&心理的特性を加味した特性を、物理曲線で表したものを等色関数と言い、この等色関数と同じ特性を持ったデジカメやビデオがあれば、いま問題にされているような色の問題(色が見た感じと違う)は格段に軽減される。そのようなカメラをXYZカメラと呼ぶ。しかしそのような特性を持つフィルター作成技術がなかったため、実際には応用されずにいた。
一般にデジカメやビデオカメラはR(赤み)・G(緑み)・B(青み)データであるが、RGB データは人間の持つ特性と異なっているため、人間の目の感覚とは一致しない。ホワイトキャリブレーションを撮影場所ごとに行ったりするのは、人間の目とデジカメの視感度特性が異なっているからなのだ。例えば能楽堂で能を見ていた時、あの能楽堂の雰囲気で色再現できればいいのに、なぜホワイトキャリブレーションが必要なのだろう?と疑問に感じた人もいるだろう。
この素朴な疑問が正しいのであって、人間の目と同じ特性を持ったカメラがあれば、センサーのキャリブレーションさえしっかりされていれば、XYZ カメラなら能楽堂の照明に照らされた雰囲気で撮影できる。薪能のかがり火のイメージも再現できる。XYZ カメラはRGB ではなく、人間の目のセンサーと同じXYZ を直接読み込むことができるようにしていて、人間の目視感により近づいた色を読み込むことができる。色を正確に再現するには2 つの方法がある。
電磁波である光の周波数の選択吸収により色が変わってくるのだが、これをグラフ化したものを分光スペクトルといっており、色を分光スペクトルで表して数値化しようというのが分光色再現である。分光スペクトルで等価になるように色再現してあれば、メタメリズムが起こったとしても等価性は変わらない。つまり、この照明の時に本物と印刷物は同じ色だが、違う照明下では本物と印刷物が違う色になってしまうことは起こらない。常に同じなら同じ、違うなら違うことになる。
連続してスペクトルを計るのは実際的でないので、例えば400 ~450nm というバンドに分けて測定している。現実には6 分光で全く問題ないが9 分光なら精度は上がる。分光測色計も同様で、10 分光位にバンド化して測定しており、それを計算してXYZ 値(その後にLab 値)を求めている。一方でXYZ カメラはダイレクトにXYZ を測定できる測色機である。印刷でも人間の目がどのような仕組みで色を感知しているかを理解できれば、色再現に対しての対処で応用展開ができる。
電子書籍時代になり、書籍コンテンツが印刷業界以外からの供給もされるようになると、組版ノウハウもさることながら、色に関するノウハウが大きな差別化になってくる。XYZ カメラはカメラやビデオカメラの進化形のほか、印刷色のチェック用センサー(色見台用)として使用することも試みられている。
(『JAGAT info』2011年4月号より)