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アマゾンジャパンは4月19日(火)、通販サイト「Amazon.co.jp」で、注文に応じて書籍を印刷し出荷するサービス「プリント・オン・デマンド(POD)」を開始した。オーダーは1冊からでも可能である。
「プリント・オン・デマンド(POD)」の対象書は注文に応じて印刷されるため、常に出荷可能な「在庫あり」の状態になる。ユーザーは購入の際に「Amazonプライム」や「お急ぎ便」など、在庫がある場合に適用可能なオプションサービスを利用できる。つまり希少本でもベストセラーと同じ扱いを受けられるのだ。
今まで出版社側は本の売れ行きを予測し価格を決めており、在庫のリスクを覚悟で商売している極めてギャンブル性の多いビジネスだったのだ。それがPODになると倉庫のコスト絶版本や希少本特有のコストを抑えられ、出版社側のリスクも回避されるので良い本を作ること、良い本を長く販売することに集中できる。もちろん。海外の出版社も、日本国内で販売する際に生じる在庫管理のリスクや輸送費などを減らすことができる。
英語の本はグローバルマーケットが対象になるため、世界的な流通経路の構築がビジネスの核になるので、デジタル印刷による在庫や運搬コストを抑えることの方が、印刷単価を落とすより重要になる。だから海外の出版社はデジタル印刷、PODに熱い視線を向けるのだ。ドイツで一度に何十万部印刷して在庫し、注文ごとに世界中に出荷していては、非効率的なのは言うまでもない。ドイツのサーバー(クラウドだったらなお良いが)にコンテンツをストックしておいて、アジア地域で注文が入ればシンガポールで印刷・製本&デリバーという具合である。
現在Amazonの「プリント・オン・デマンド(POD)」に参加しているのは、ケンブリッジ大学出版局やTaylor&Francis、British Library、Macmillan、シュプリンガーといった世界の大手出版社で、対象書籍は60万冊以上。サービス開始当初は洋書から取り扱い、順次和書にも拡大していくとのことである。ベストセラーというものではないが、一部の大学図書館にしかなかった専門書をPODで誰にでも手に入れることが出来るというのは、学術の世界では画期的なことといえる。
学術書を必要とする研究者には大歓迎されているAmazonのPODサービスだが、正直な意見として「Amazonすごいな!ついでに電子書籍もセットでついてくるともっと嬉しい」という声があったりする。「電子書籍とデジタル印刷をセットにするとビジネスになりそうだ」というのは何となく想像できるのだが、妙案がハッキリしていないというのが正直なところだろう。それを具現化したところが電子書籍時代の勝ち組印刷会社になり得るだろうし、今までの大量印刷ビジネスで生き残るよりは、こちらの選択肢の方を考えることが印刷業生き残りのキーワードになるかもしれない?
くどいようだが、印刷は本来大量複製技術であり、保守本流である大量複製ビジネスも印刷の王道として残ることはいうまでもないことである。PODに合ったコンテンツ例として英語の学術書を挙げられると日本では関係ないと思われるかもしれないが、日本には最強のグローバルコンテンツであるコミックが存在する。吹き出しだけバリアブル化できれば最強最適のデジタル印刷コンテンツと言える。(文責:郡司秀明)
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