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ミステリーゾーンに代表されるSF映画や小説で「箱庭のようなところで人類の歴史がものすごいスピードで進化しているというストーリー」がある。そしてその箱庭の歴史が現代を追い抜きそうになってトラブルが起こり、未来に警鐘を鳴らしてお終いという具合だ。Webの世界はもしかしたら、印刷の箱庭なのかもしれないと思うことがある。要するに印刷の未来が「Webの進化を見ているとヒントも含めて見えてくる」いうことである。
印刷の歴史を見ていくと「高品質」「安定性」「採算性」という事を徹底的に追い求め、これ以上は?というところまで進化してきたのが、現在の印刷技術といえる。そしてここにデジタル印刷が出てきて、「採算性もそのうちアナログ印刷に追いつくだろう?」とか「品質もオフセット印刷と比べて遜色ない」とか、とかとかという議論になると、議論は建設的且つ実践的意見から単なる参考意見になってしまい、セミナーなどやっていても2011年はここまで進化しましたという報告で終わってしまうのだ。
WebやITの世界はどうだろうか?SNSやニコニコ動画などが保守本流のマス的なメディアを脅かしているのが現状だし、この勢いは止まることはないようである。一言でいってしまえばWebはマスメディアよりも非マスメディアとして増殖しているということだ。「SNSは解らん」「ニコニコ動画など信用できん」「生理的に受け付けない」と言っていたら、大きなビジネス喪失になってしまうことは間違いがない。Webの場合、マスメディアとしての役割はしっかり持っている。そしてそれとは別に非マスメディア的なSNSが力を持っているのだが、それが2チャンネルのように一生アウトサイダーなら問題も小さいのだが、小沢一郎氏が好んでニコニコ動画を利用するようになってくると捨て置けない。昔佐藤栄作首相が新聞を嫌ったのとはレベルの違う大問題である。
印刷の場合、マスメディアか非マスメディアということを考えると、Webのようにはハッキリ想像することができない。それは印刷がマスによく似合うメディアだからだろう。しかし、マスメディア的な印刷も非マスメディアの流れには打ち勝つことは出来ない(と思う)。もちろんマスが無くなるなんてことは決してないし、印刷の主流であり続けることは間違いない(マスあっての非マスだから)。ただし非マス的なものをアナログ印刷でやっていくには無理がある。日本人の器用さで五百部くらいまではアナログで問題なくやってしまうから、日本では問題点が判らなくなってしまうのだが、非マス的な印刷の必要条件はPODであり、CTP化による一泊二日印刷では非マスというには力不足だ。デジタル印刷普及はアナログ印刷の置き換えでは絶対無理であり、デジタル印刷の強みであるオンデマンド性、新幹線の無線LANで注文し、新大阪で印刷資料をピックアップという時間単位自体が非マス的な印刷である。
以上を踏まえて必ず成功するデジタル印刷は
1)オフィス文書に関するサービス(ネット注文、コンビニ印刷等)
2)徹底的にPODにこだわったサービス
3)文書部門のアウトソーシングビジネス
4)Webや電子書籍とリンクしたサービス(NHKでもドラマのシナリオの携帯配信などを始めている。新しい
複合メディア作りは始まっている)などが挙げられる。
こういうことをやっていくウチにアナログ印刷かデジタル印刷か?迷ってしまうグレーゾーンが広がっていくというのが、常識的なデジタル印刷普及の筋書きなのだろう。印刷業界ではここになるまで待てば良いと考えてしまいがちだが、マスにこだわるか、こだわらないかは各社のスタンスで決めればいいことであり、POD、非マス的なビジネスに向いている会社も少なくないはずである。(文責:郡司秀明)
■関連セミナー
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