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PAGE2011 基調講演3開催報告。地域活性は印刷業に求められる役割であり、かつ過当競争を避け新たな市場創造につながる取組みとなる。
PAGE2011の3日目、2/4(金)9:45-11:45で開催した基調講演3「地域活性化ビジネスへの取組み 」では、デジタルメディアの普及などの環境変化が印刷業に与える影響、そして、印刷業に求められる役割を再考しつつ、具体的な地域活性の取組みについて紹介した。
西川コミュニケーションズ(株)取締役副社長の西川誠也氏からは、「2011年7月25日の準備はできているか?」という問いかけを皮切りに、家庭のテレビがチラシになる、iPADが商品カタログになる時代に印刷業は何をすべきかという問題提起があった。
紙に印刷することだけを自社の生業とするならばビジネス環境はさらに厳しくなるだろう。しかし、情報伝達を生業と考え、iPAD、スマートフォン、インターネット放送など多様化する情報伝達手段に対応していけば市場は大きく広がる。市場開拓のキーワードとして、①モバイルプロモーション、②DMの費用対効果向上策、③プロモーショナルマーケッター、④環境対応、そして、⑤地域活性がある。
印刷・SPだけの商売は、どんどん利が薄くなってきているが、それを使ったプロモーションにすれば、印刷代の6~10倍ないし、それ以上の売上・利益を創出することができる。印刷会社がこれらの能力を身に付けることで『私たちの町の中堅企業』を支えることにもつながる。
西川氏は、NPO地域創生機構の立ち上げにも携わっている。地域地域に眠る特産物の生産者と消費者をつなぐ役割を地域の印刷会社が果たせるのではないか、というのが創設の動機である。地域に限定された特産物を商品として流通させるには、商品化の提案、パッケージデザイン、包装材の提供、販売ルートの開拓などがあり、印刷会社が協力できることは多い。
(株)セントラルメーリングサービス ディレクターの河合嘉一氏からは、印刷業の得意先である地域の卸・小売業が抱える悩みは何か?、そしてその対策としてどのような取組みをしているか?、を起点として、印刷発注者の印刷物・印刷会社へのニーズが「単価」重視から「効果」重視へ変わりつつあると指摘した。
そして、これからの印刷会社はお客さまの課題である集客と売上を上げるためのノウハウを提供できる存在にならなければならないと問題提起した。そのノウハウの一例として、DMソリューションの紹介。また、地域の中心である駅をキーワードに展開したケータイサイト「駅サイトing」の事例から紙とケータイの相乗効果について解説した。
得意先自身も次の一手に悩んでおり、課題を共有し共に勉強していく姿勢を示すことでパートナーとしての関係性が深まるとして、少人数のビジネス勉強会の取組みの紹介もあった。
これらの取組みにより印刷会社が地域の情報交流の拠点となることができる。
最後に利根川印刷(株)代表取締役社長の利根川英二氏より、地域資源を活用した地域活性と新たなビジネス展開の具体例として、湯島本郷マーチング委員会の取組みを伺った。
二年前のリーマンショックをキッカケに私欲資本主義から公益資本主義に移り変わりつつあるという問題提起を「先義後利(先に義を果たすことによって後に利がついてくる)」という江戸時代中期の思想学者 石田梅岩の言葉を引用しつつ行った。企業の存在意義は利益の追求だけではない、地域に活かされつつ現在があるという視点を持って地域の人の役に立つことをすることが大事で、その後にビジネスがついてくるのではないか。
湯島本郷マーチング委員会は、湯島本郷に根ざした情報サービスを行いながら地域の相互(互恵)情報の受発信を支援し、湯島本郷の住民・商店・企業の地域活性化促進を支援するプラットホームを目指している。
地域住民、公益組織(町内会)、企業、そして教育機関という三位一体ならぬ四位一体で取り組んでいる。
その活動の一つが「湯島本郷百景」のイラストである。「歩いて15分(半径1キロ)」の範囲にある街の名所や普段何気なく目にしている風景を水彩画で表現し、地域の皆様に自分達の街をもっと好きになってもらおうという試みである。湯島天満宮の境内で原画展を開催したところ非常に好評で、ポストカード、切手、名刺、カレンダーなどの印刷メディアへの展開を生んだ。前例がないので発行まで時間がかかったが郵便局での製造販売を実現している。「湯島本郷百景」はWebサイト(http://yushima-hongo.jp/ )にも展開している。その他、地域に根付いた情報交換の媒体として湯島本郷マーチング通信というフリーペーパーを発行している。
活動の到達点としているのは地域の互恵情報事業としての「文京人コンシェルジェ」の成功である。地域の観光スポットや店舗情報などをデータベース化し、Web・紙・動画といったさまざまなメディアと連動させることで、観光振興・商業振興・地域力向上の支援をしていきたい。
その根底にあるのは、「新しい公共」宣言にある「すべての人に居場所と出番があり、みなが人に役立つ喜びを大切にする社会であるとともに、その中からさまざまなサービス市場が興り、活発な経済活動が展開され、その果実が社会に適正に戻ってくることで、人々の生活が潤うという、良い循環の中で発展する社会である。」という考え方である。 (内閣府 http://www5.cao.go.jp/entaku/index.html )
今後は、湯島本郷での百景ビジネスの取組みを他の地域で、地元の印刷会社が中心になって広げてもらいたい。そのノウハウは積極的に伝えていく。まず地域を活性化し、つぎに地域と地域が連携し、ひいては日本を活性化していく大きなうねりを作っていきたい。すでに、あだち、いわき、日本橋、藤沢等々に広がりつつある。
印刷業の強みはさまざまな業種の得意先を持ち、地域、自治体とも密接な関係があることで地域活性化ビジネスを担うにふさわしい存在である、そして地域社会への貢献はCSRの一環であるとともに地域活性化は多種多様で無限の可能性があるということが改めて確認できたセッションであった。
(花房 賢)