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PAGEカンファレンスの締めくくりとして最終日2011年2月4日15:15〜17:15に行われたデジタル印刷カテゴリーのDP2「デジタル印刷成功の条件」はなかなか興味深い内容だった。
デジタル印刷はいつも同じことばかりの繰り返しで辟易というのが正直なところだが、このセッションは原点回帰ともいうべき内容で、非常に面白いデジタル印刷話題だった。
モデレーターをお願いした山下潤一郎氏は大手コンサルタント会社でデジタル印刷に従事されていたのだが、独立され「ブライター・レイター」という屋号でコンサル活動をされている。ブライター・レイターの意味は「(雨)のち晴れ」という感じで、氏が関係されたデジタル印刷の歴史や実情を上手く表現している洒落た名前だ。
山下氏は最初に仮説としてデジタル印刷を成功させる条件として以下のことを挙げられた。
・ 発注者のメリットが明確になっている。
・ 企業の購買担当者以外をターゲットにしている。
・ 小ロットニーズを取り込んでいる。
・ インターネットを活用している。
・ パートナーと協業している。
・ グローバルにサービスを展開している。
これだけ聞かされればなるほどという感じだが、これがメインスピーカーの浦上氏の話が付け加わり、俄然印象が強烈になる。
ネットスクウェアの浦上義久社長はキンコーズを立ち上げた方でもある。日本のキンコーズは住友鉱山が出資してスタートしたのだが、浦上氏もその住友鉱山からの出向組の一人であり、ゼロから出発して苦労の末に形が出来上がろうというときに、キンコーズがFedExに買収され、結局キンコーズを離れて新しくネットスクウェアをスタートしたという波乱の半生を過ごされてきた方である。この話だけでも三時間くらい聞きたいくらいだが、現在のビジネスだけに絞ってご説明したい。
ネットスクウェアはコクヨの出資を受けているコクヨグループに属する会社であり、山下氏が挙げた成功の条件を徹底的に実践している会社だ。デジタル印刷で問題になるのが採算分岐点で、500部以上だとオフセットの方が安い等という議論になってしまうと、堂々巡りになってしまうのが常である。しかしネットスクウェアの場合は、徹底的にPODにこだわるビジネス手法で成功している。
POD(Print On Demand)とは?
・必要なものを
・必要なときに
・必要な量だけ
・必要な場所で→ On Site Printing
特に最後の「必要な場所で」ということにネットスクウェアは執着している。
その結果パートナーに選んだのがJR西日本や東急電鉄という電鉄グループなのだ。(日本郵政とのパートナーシップも強力)
「ネットで借りてポストに返却♪」というのは有名だが、例えば大阪梅田で会議やプレゼンがある場合は、資料の印刷をネットで注文して、JR大阪駅でその資料を受け取ってから現場に向かうという具合である。ましてや最近の新幹線の便利なこと、N700系(ダイヤ改正で全新幹線の9割になるらしい)は私も重宝させてもらっている。新幹線の中で原稿の2本くらいは書き上げてしまい、即入稿してしまうことを日常茶飯事でやっている。こんなことがサラリーマンの間でも当たり前の時代に突入している。図1を見てもらえば一目瞭然だが、ネットスクウェアがJRと組んだ先見性には脱帽する。
このビジネスを成り立たせている背景には、全国区の大手企業のプリントサービス部門を請け負っているというアウトソーシングビジネスがある。この辺は細かい話は伺えなかったが、こういう体制があるから全国の中核都市にネットワークを張り巡らしても採算に合ってくるのだろう。(基礎的なデマンドの上に外の仕事も取るわけだからビジネス的には有利)同じことが中国市場でもいえてくるようになるはずである。
二番手のスピーカーにはコニカミノルタビジネスソリューションズの杉山氏に登壇願ったのだが、はじめに印刷会社以外の事例を聞きたいとお願いしていたため、名刺の話一つにしても示唆に富んだ話が聞けた。しかし、内容に関してはセミナー以外では出さないということにしているので、ご勘弁いただきたい。
結論としては、やっぱり今のオフセット印刷の代わりというのではなく、保守本流のPODや極小ロット、超短納期というところにデジタル印刷の勝機があり、オフセットに置き換わるのはもう少し経ってから(これがどのくらいかはこの時には予想していない)というのが結論である。(文責:郡司秀明)