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自社の強みを明確に打ち出している印刷会社は強い。「なんでもできます」というのは、実はあいまいで顧客からの信頼を勝ち取ることは難しい。
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2010年11月11日、JAGATにてセミナー「デジタル印刷を生かす」が開催された。今回は第14期プリンティングコーディネータ養成講座のカリキュラムのひとつとして開催され、アメリカの最新事例から日本の印刷会社にとって参考となるデジタル印刷ビジネスについて学んだ。
講師はJAGAT 相馬謙一。
セミナーでは講師がアメリカで視察した印刷会社の事例を中心に解説した。日本では、デジタル印刷機の導入は進むものの、まだオフセット印刷のほうに比重がおかれている傾向がある。営業担当にとっても、同じ提案の手間と時間をかけるのであれば、単価が3万円~5万円と安いデジタル印刷より単価が1桁違うオフセット印刷に力をいれるのはやむをえない。
アメリカでは印刷会社が生き残りの手段として必死でデジタル印刷の活用を考え取り組んでいる。たとえば酒販小売業を顧客に持つある商業印刷会社では、レストランのメニューやチラシなど、顧客の店舗ごとに必要となるよう販促物を迷わず発注できる仕組みをWeb to Printで提供し、単価が安くても細かい仕事を大量に受注することで利益を上げる仕組みを作り上げている。
営業戦略の変化は、顧客向けにカスタマイズしたWeb to printの仕組みを提案することになるので、顧客のニーズ分析からスタートするために営業サイクルが長く、6 ヶ月~9 ヶ月、長いものは2 年で売上が計上できるケースもある。ここをきちんと作っておかないと、営業レスにならない。デジタル印刷はJobの一つずつは小ロットになるので、営業マンに代わる仕組みとしてWeb to printを提供することになる。
このような提案は発注先の社長(CEO)やマーケティング役員などを説得して、きちんとセールスができなければならない。一人の営業マンでも良いから、きちんと提案できる営業の育てることが大切である。この営業マンに求められるのは、今までの印刷営業とは違う文化であもあるので、社員教育だけでなく、企業合併・買収、アウトソーシング、提携なども行われている。
生産戦略においてもデジタル印刷は多品種極小ロットの生産になるので「IT 技術で人件費コストを下げる」ことにも力を入れる。例えば2 人分のコストが掛かっていたのをIT によって1 人でできるようにシステム化して、コスト削減する。
さらに米国ではデジタル印刷がオフセット印刷を完全に置き換えるのでなく、ハイブリッド印刷(オフセット+デジタル)による「ロングランバリアブル」(固定情報はオフセット印刷によるロングランで料を稼ぐ、可変情報はデジタル印刷で付加価値を稼ぐ)の提案による高収益モデルを目指しているところが多い。
下図は印刷会社2社が2005 年に合併(ビジョン70 名、アルファベータプレス95 名)、それまでのオフセット印刷ビジネスから、デジタル印刷ビジネスに大きく舵を切った米国シカゴ郊外のVision Integrated Graphicsの業態変革の姿である。同社は「発注企業とそこの顧客とのコミュニケーションを円滑にすること」が主要なビジネスドメインに据えている。
アメリカの印刷会社におけるビジネスモデルを解説。
講師によると、アメリカ視察で印象に残ったことは、経営者が皆、自社の事業ドメイン(強み)を即答できることであるという。Web to Printであれ、オフセット印刷+デジタル印刷のハイブリッド印刷であれ、強みを明確にすることで自社を強くしている。
「日本の印刷会社で同じことを尋ねたら、 即答できない経営者も少なくないのではないか。お客さんにとっても強みが明確である印刷会社は魅力的であり、逆に「言われれば、なんでもできます」という 印刷会社は信頼されない。」。
最後に、今後は顧客との関係や必要となる知識がいままでとは違ってくるため、従来ありがちな「1通あたりいくら」という考え方を捨て、顧客利益を最大化するための手段として印刷物を使ってもらえるよう提案していくことが求められると述べた。
(教育サポートセンター)