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経営の本質とは「一人ひとりではできないような大きな仕事を皆でこなし、一人ひとりでは突破できない難関を皆で何とか切り抜けること」であり、それが「組織力」である。
■働き者の貢献は給料の額では計れない
「上位20%で全量の80%になる」 という二八の法則は、「20%の顧客が80%の売り上げを占める」 として、優良顧客を確保・維持することの重要性の傍証とされる。さらに、「社員の二割が全社の利益の80%を稼ぎ出す」とも言われ、優秀な人材の採用・育成が経営戦略の要と言われる理由でもある。
しかし、優秀な人材さえ集められれば組織が機能するかと言えば、そうでないことは経営者・管理者の多くが経験的にも実感している。働き蜂の法則によれば、20%が働き者の働き蜂で、60%は普通に働いていて、残りの20%はただウロウロしているだけだという。そこで、働き者の働き蜂だけを集めてみても、100%が働き者になることはなく、やはり20%どまりだと言う。
つまり、社員の20%は給料分以上の仕事をしているが、60%は給料分働いているだけで、20%は給料分の仕事もしていない。この比率はどのような集団でも同じようなものだということになる。しかし、20%の働き者が組織に変革をもたらし、今日の糧だけでなく、明日の糧をも生み出す。
給料分の仕事をしていない人間がもたらす損失は給料の額で計れるが、給料分以上の仕事をしている人間の貢献は給料の額では計れない。それなら、社員を査定したり評価したり、限られた原資を争奪させるラットレースに駆り立てるよりも、働き者が「気分よく働ける環境」を整備するほうが合理的ではないか。
■「組織力」とは何か
経営学・経営組織論を専門とする、東京大学 大学院経済学研究科 高橋伸夫教授は、ベストセラー『虚妄の成果主義―日本型年功制復活のススメ―』(日経BP社2004年1月刊、ちくま文庫版2010年9月刊)において、日本企業の人事システムの本質は、給料で報いるシステムではなく、次の仕事の内容で報いるシステムだったとしている。つまり、成果を上げた人には、次にはより大きな仕事が与えられ、仕事のサイズが大きくなるのに応じて地位も上がっていく。だからこそ「また君と一緒に仕事がしたい」というのが最高の報酬であると喝破している。
さらに最新刊『組織力-宿し、紡ぎ、磨き、繋ぐ』(ちくま新書2010年5月刊)では、経営の本質とは「一人ひとりではできないような大きな仕事を皆でこなし、一人ひとりでは突破できない難関を皆で何とか切り抜けること」であり、それが「組織力」であると定義している。
結論よりプロセスが大事、そもそも問題解決だけが意思決定ではない、目標を達成しても会社のためになっていない、「組織の合理性」は意思決定の後で見出される、仕事を本当の意味で共にする、長期的経営的スケール観をもつ、目標を達成するだけではなくて次の仕事を、等々、組織人の多くが身につまされるエピソードを読み進むうちに、それは自社だけの問題ではないことが見えてくる。
経営学、経営組織論(組織設計論・組織活性化・ぬるま湯的体質・近代組織論の生成・組織学習論)、意思決定論(決定理論・ゴミ箱モデル・やり過ごし・意思決定原理)、統計調査論(統計調査法・コンピュータ統計学)を専門とする高橋教授が一般読者に向けて分かりやすく説いた「組織論」だけあって、経営者だけでなく、管理職や一般社員にとっても今抱えて問題を整理する助けになるだろう。
11月19日(金)に開催される 「経営シンポジウム2010」 では高橋伸夫教授の基調講演と、ディスカッションで「モチベーションを高める組織のあり方」を考えます