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日仏交流150周年記念事業として経済産業省が主催するパリ ルーブルでの「感性展」が12日から開催、全印工連は未来感性ゾーンに出展。
全日本印刷工業組合連合会が出展する、「感性 kansei-Japan Design Exhibition-」(主催:経済産業省・日本貿易振興機構)が、いよいよ2008年12月12~21日、パリ・ルーブル宮にあるフランス国立装飾美術館において開催される。
この感性価値創造フェアは、経済産業省が推進する感性価値創造イニシアティブ事業の一環です。古来、日本人が大切にしてきた「感性」を、機能、信頼性、価格を超えた'第4の価値軸'と位置づけ、世界市場において我が国製造業の地位を確固たるものにすべく推進している事業である。生産性競争に限界が見えてきた印刷産業の未来を考えるにあたり、デジタルメディアにはない印刷物の特長である「五感への訴求力」を軸に、印刷メディアの可能性を内外に発信する場として、フェアでは「未来感性」ゾーンに出展する。
このプロジェクトは、全印工連の提案から始まったという点で画期的なものであり、今までのように政府が決めた政策の受け皿としてではなく、主体的に自分たちの未来を考え、行動に移されたものである。受注産業と位置づけられてきた印刷産業ですが、是非このチャンスを活かして、無限の可能性を秘めた産業として大いに飛躍が期待される。
感性展のプロデューサーには国内外の作品展で非常に高い評価を得ているNPO法人Hexaproject(ヘキサプロジェクト)の久米英之氏を迎え、実務を担当する全国青年印刷人協議会のメンバーとともに、世界に誇れる日本の印刷技術を駆使した創造性豊かな作品が出展される。
開催前日の12月11日はルーブルの装飾美術館「樹の間」(+1900年の間)において、主催者である経済産業省 製造産業局 次長 後藤芳一氏の挨拶に始まり、フランス政府代表のイドラック貿易大臣の祝辞とともに、招待された展示会関係者、日仏VIP、デザイン関連業界メディアなど200名以上が参会、したルーブルでの感性展の開催を祝った。
会場となるルーブル宮
【感性展の概要】
名 称:感性 kansei-Japan Design Exhibition
開催期間:2008年12月12日(金)~21日(日)
会 場:パリ市内 ルーブル宮
フランス国立装飾美術館(LES ARTS
DECORATIFS)
来場者数:10,000人(予定)
主 催:経済産業省、独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)
共 催:LES ARTS DECORATIFS
内 容:感性体感空間(歴史感性)、商品展示(現在感性)、
企業/団体展示(未来感性)の3要素から構成
感性価値創造フェア「感性 kansei-Japan Design Exhibition」は、日仏交流150周年記念事業として、日本の製品・素材・技に受け継がれる'感性'の素晴らしさを伝える目的で開催される。会場となるフランス国立装飾美術館は、フランスのインテリア、ファッション、アートなど歴史的な装飾品を展示する美術館。また、世界中から各時代の感性を切り取った作品を選定・所蔵・展示している。
「感性 kansei-Japan Design Exhibition-」の展示会としてのコンセプトは「日本の感性価値創造の感動装置」。'kansei'の根底に脈々と流れる日本の精神・文化を紐解きながら、今を語り、未来を見据える。来場者は感性時空を行き来することで、驚き、共感し、感動し、日本デザインを深く理解する仕掛けである。会場入口には、書家・武田双雲氏による「感性」という文字を3Dムービー化し、来場者に強いインパクトを与える。展示会場は次の3つの空間から構成される。
〔歴史感性〕感性体間空間日本デザインの根底に流れる'kansei'を体感できる映像と音、建築による演出。メインホールをシアター化し、光源氏を主人公に平安時代の絵巻物語を三次元ムービーで見せる。この空間を核に、来場者は現在、未来の展示空間を自由に行き来する。
〔現在感性〕商品展示現在の日本デザインを体現する意匠と技術が融合するプロダクト製品約300点を展示。電気製品、工業製品、ファブリック、伝統工芸まで、「表情」「心」「動作」をキーワードにkanseiプロダクトを編集、展示。
〔未来感性〕企業/団体展示これからの日本デザインを牽引し、新しいkanseiを創り出していく未来志向型の企業/団体の展示空間。
このほか「感性を語る」をテーマにkanseiセミナーも開催する。日本の歴史感性を紐解き、現在までの変遷、そして未来感性を語り、伝える。日仏両国のデザイナー、デザイン関係者をパネラーに迎えたパネルディスカッションも開催する。
なお、経済産業省では、日本の'kansei'を世界に発信する展示会として、今回のパリ開催を皮切りに、3ヵ年計画で世界の主要都市にて開催する予定である。
印刷業界と感性価値創造事業 ─なぜ全印工連は「感性展」に出展するのか─
◆新しいマーケット創造の必要
いま印刷業界は、社会環境の急激な変化を乗り越えるべく、業態変革に果敢に取り組んでいる。しかし、生産効率の向上による供給過剰が激しい価格競争を引き起こしている中、これまでの限られた市場だけを対象にしていたのでは、具体的な成果を得ることは難しくなっていく。そこで、現状の7兆円市場以外の新しい事業領域を拡大していく必要があります。中小企業1社では困難なマーケット創造という仕事に、全印工連は全国の組織の力をもって取り組み、印刷産業の活性化を目指していきます。そして、マーケット創造のための有力な手段の一つとして「感性価値創造事業」を捉えている。
◆感性価値創造事業の考え方
近年、電子媒体やITツールの普及により、人々のコミュニケーションスタイルが急速にデジタル化してきた。しかし、無味乾燥なコミュニケーション手段の隆盛は、人々の感受性を失わせ、社会が荒廃する一因となっているのではないだろうか。人間の五感に訴え、感性を刺激することで人々の心を豊かにできる印刷メディアならではの良さが、社会全体の過度のデジタル化によって見失われているのは残念なことである。また、印刷メディアを熟知し、その良さを効果的に活用できるプロデューサーの存在が少ないことも、デジタルメディアへの傾斜が進む原因となっている。そこで、印刷はもちろんデジタルメディアにも精通した印刷会社がプロデュース機能を果たし、適切に印刷メディアを活用していく必要がある。人々のコミュニケーションに「感性」という要素を復活させ、豊かな社会を築くことは、印刷業界が担う大事な社会的使命だと考える。
◆コンテンツ・プロデュース業を目指して
今回の「感性展」への出展では、コンテンツ制作者であるクリエイターと中小印刷会社が連携して、五感に訴える印刷表現技術を駆使し、新しい印刷の価値を提案する。クリエイターの独創的なコンテンツを高度な印刷技術で製品として開発する経験を通じて、クリエイターとの連携によるビジネスモデルの開発手法を習得することができる。また、国内外のプリントバイヤーやプロダクトメーカーにわれわれの力をアピールすることで、新たなビジネスモデル創出の機会としする。
全印工連では今後も、印刷物を中心としたコンテンツビジネスを印刷会社がプロデュースしていくことを目指していく。今回のプロジェクトを各地域に応用し、地元の伝統工芸や特産品とのコラボレーション、さらには地元行政との協働につなげることにより、印刷業を中心とした地域活性化モデル実現の可能性も見えてくるだろう。
「感性展」出展までの経緯
〈2008年〉
5月
・経済産業省より感性価値創造イニシアティブ事業および12月のパリ「感性展」について、水上全印工連会長、全青協有志が説明を受ける。感性価値創造プロジェクトチームを発足6月。
・全青協が第1回正副議長会で平成20・21年度の重点事業として「感性価値創造事業」を採択する。
7月
・全印工連の常任役員会において「感性展」への出展応募を正式決定
・感性展プロデューサーに久米英之氏の起用を決定
8月
・経済産業省「平成20年度中小印刷業における新規顧客開拓促進事業」委託公募に応募。全印工連が委託先として採択される
・感性展の出展アーティスト7人を決定。出展作品は「アーティストブック」とし、本の形状で独創的なデザインと印刷技術を見せることを決定。
9月
・マスコミ、専門紙誌に向けた記者発表会を日本印刷会館で開催。併せて、出展アーティストと全印工連の感性価値創造プロジェクトメンバーとの初会合を行う
10月
・各アーティストの出展作品デザインが完成
・出展作品(印刷物)の制作協力会社を全印工連ホームページで公募
11月
・出展作品の制作委託事業者として9社を決定
12月12~21日
パリ・フランス国立装飾美術館で「感性 kansei-Japan
Design Exhibition-」が開幕。全印工連が「NIPPON Creative Printing Show
vol.1」と題して21日まで作品展示、映像上映を行う。
感性価値創造プロジェクトメンバー
委員長 臼田真人(㈱アドピア)、副委員長 江森克治(㈱協進印刷)、岸 昌洋(正文舎印刷㈱)、木村和生(㈲小野印刷所)、三島秀夫(六三印刷㈱)、長田 進(㈱長田文化堂)、水谷勝也(富士印刷㈱)、田畑良一(㈱青雲堂印刷所)、山本順也(大兼印刷㈱)、宇都宮公徳(㈱ユニックス)、宮嵜佳昭(㈱ミヤプロ)、薬王寺文宏(㈲八宏印刷)、村山幹子(水上印刷㈱)
特別委員 相馬謙一(日本印刷技術協会)、金澤克明(㈱印刷出版研究所)
プロデューサー 久米英之(Hexa
project)、キュレーター 大森久美(Hexa project)
【訪仏したプロジェクトメンバーとクリエーター】
感性価値創造イニシアティブ'第4の価値軸'の提案とは
【経済産業省 資料より】
2008年12月にフランス国立装飾美術館で開催される感性価値創造フェア「感性 kansei-Japan Design
Exhibition?-」。同展示会は、経済産業省が推進する感性価値創造イニシアティブ事業の一環として開催されるもので、内外に向けた日本の感性価値発信イベントの第一弾である。フェア開催の背景には、日本の社会や産業界の活性化に向けて欠かせない「感性=第4の価値軸」の考え方がある。
◆今なぜ「感性価値イニシアティブ」か
我が国産業は、人口減少に伴う量的需要の減退、近隣諸国の追撃などの構造変化に直面している。競争力を維持・向上させていくためには、「いい商品、いいサービスとは何か」という基本的な問いに立ち返る必要がある。
「いい商品、いいサービス」とは、作り手のこだわり、趣向、遊び、美意識、コンセプトなどが、技術、デザイン、信頼、機能、コスト等によって裏打ちされ、ストーリーやメッセージをもって「可視化」し「もの語り」化することにより、生活者の感性に訴え、「感動」や「共感」をもって受け止められる商品やサービスのことである。それらは特別の経済価値を生み出していく。感性価値イニシアティブでは、ものづくり等において機能、信頼性、価格という要素を超えた'第4の価値軸'として「感性」を提案する。
◆感性価値はイノベーションと成長のドライバー
「感性価値」とは、生活者の感性に働きかけ、感動や共感を得ることによって顕在化する価値である。
感性価値の概念は、決して生活者に近い最終製品だけのものではない。素材・部品という川上から最終製品という川下までの広がりを持った工業製品全般、さらには農産物や流通、サービス、コンテンツに至るまで、新たな日本のものづくりやサービスを考える上での普遍的に重要なキーワードである。
「感性価値」が高い商品・サービスが我々の暮らしの中に増えていくことは、生活者の心の豊かさに貢献するものであり、成熟経済においては、感性価値中心の発想によるものづくりやサービスこそ、新しい需要を喚起する力を持つ。
感性価値の実現には、作り手と使い手が互いに響き合い共同で作り上げる「共創」が重要である。「共感」と「共創」の連鎖は、新たなビジネスモデルを生み出し、我が国経済を牽引する新たなイノベーションと成長のドライバーとなる。加えて、感性価値創造は、地域経済も含めた国内の潜在的な需要発掘や、世界市場にも伝播しうる可能性を持つ。
◆感性価値創造における日本の強みと弱み
我が国は、多様な文明から「いいとこ取り」をして混交させ、大胆に機能や装飾を削ぎ落とすことで独自の価値を創造することに長けている。五感に訴える仕上げや使い手への思いやり、ディテールへのこだわりは、日本の繊細な感性の表れであり、我が国産業が活用できる財産である。
感性価値と技術力の融合は新しいものづくりとサービスのイノベーションを支えるものであり、どちらかが欠けても価値は半減する。優れた技術力、匠の技を持ちながら、ブランディング、マーケティングのノウハウがないために本来獲得すべき市場で対価を得ていない企業も多い。
感性価値創造を実現する中小企業の特徴は、優れた外部のデザイナーなどとのコラボレーションや内部人材の育成、生活者とのインターフェース、売り方や見せ方などの工夫、である。
◆感性価値を活用した将来系のビジネスモデル
感性価値の創造は、生活者との共感のみならず、B to
Cも含めた素材・部材という川上から最終製品という川下までのバリューチェーン全体で考えることができる。作り手と使い手が感性を交換し、共に満足度を高めながら共創を繰り返すことで、さらに感性価値が高まる。
感性価値を活用した将来系のビジネスモデルが誕生するためには、技術者、クリエイター経営者など異分野の多様な専門家と生活者がつながる場が必須である。今後、作り手と使い手が感性が出会う場や仕組みが生み出され、これらが感性価値創造を支え加速化させる。