本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
※日本人がもっとも目にしている書体の1つが、秀英体である。
印刷物における読書バリアフリーという観点や、さまざまなモバイル機器やデジタルメディアでも、文字の読み易さ・判読性が重要視されるようになってきた。
大日本印刷の伊藤正樹氏に、秀英体とユニバーサルデザインについて話を伺った。
■秀英体とは
秀英体は大日本印刷のオリジナル書体である。広辞苑では、50年前に刊行された第1版から最新の第6版まで、本文と中見出しに秀英体が使われている。また、これまで数多くのベストセラーや芥川賞を取った作品でも秀英体が使われており、日本人の多くが日頃もっとも目にしている書体の1つである。
大日本印刷は、明治9年に秀英舎という名前で創業された。はじめは築地活版の築地書体を使っていたが、明治45年頃に秀英舎の書体ということで、今のデザインの秀英体が確立した。
昭和に入ると、秀英細明朝が誕生する。大日本印刷の中で一番使用頻度の高い秀英体が、細明朝である。昭和50年頃、秀英細明朝は活字からデジタル環境(CTS)に移植されていく。
平成4年には、秀英細明朝のデザインをファミリー化して、中明朝、太明朝を作った。
■平成の大改刻
2006年から、秀英体のリニューアルプロジェクト「平成の大改刻」を進めている。
秀英体を最新のフォント規格やCTPなどの印刷技術にマッチした状態に改善する取り組みである。中心となるのは、秀英体の中核となる明朝体ファミリー、ライト、ミディアム、ボールドの3書体の開発である。従来の秀英体のスタイルを踏襲しながら、太さ・骨格・エレメントなど細かい部分を見直している。
現在では、電子出版に使ったり、モリサワからOpenTypeとして一般販売も開始されている。Webサイトや映像字幕ソフトへの提供、携帯電話にも採用されている。
■ユニバーサルデザインを志向した書体
Webや映像では漢字の細い横線が見えにくくなるため、通常はゴシックが使われるが、どうしても明朝を使いたいという場合もある。そこで映像用に使える明朝体として、秀英横太明朝を開発した。
実は、2004年頃からディスプレイフォントのテストを進めていた。新たな電子書籍端末が出てきて、130ppiの液晶ディスプレイなどでいかに文字をきれいに見せるか。横線、縦線など、いろいろな太さにしたものをさまざまな端末でテストした。
今でこそハイビジョン映像が普及して高解像度となったが、その当時のDVDやスタンダードの画質は粗くて、ディスプレイ用に作った書体でも横線が飛んでしまう。
そこで思い切ってさらに横線を太め、明朝体とゴシック体の中間くらいのコンセプトで作ったのが、秀英横太明朝である。横線を原寸の1.8倍くらい太くした。明朝体の判読性、秀英体の可読性、ゴシック体の視認性をミックスしたコンセプトになっている。
利用事例として、NHKのドキュメンタリーやTBSのドラマなどで使われている。また、カンバス社から出ている映像字幕ソフト、SSTのオプションとしても販売中である。
広告では、エビスビールの映像や集英社のWebでも使われている。
携帯電話にも利用されている。DNPが書体を提供して、東芝やパナソニックのモデルで使えるようになっている。
印刷物としてもシニア向け保険のパンフレットに使われている他、デジタルサイネージなど大型ディスプレイ型広告でも使われている。
(テキスト&グラフィックス研究会より)