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人材育成・求められる人材像 : 製本・加工会社の現場から

掲載日: 2008年11月26日

変わることにはリスクがあるが、変わらないことが一番大きなリスクになるのだ。

旭紙工株式会社 代表取締役社長 橋野 昌幸 氏

管理職育成の最初の試み

旭紙工はパート、アルバイトを含め、約200名の社員がいる。大阪府には約600社の製本・加工会社があり、そのほとんどが家内工業で、その中では当社は大手の部類である。

私が入社した平成元年には社員は17名だったので、順調に成長してきたと言えるが、その過程で私が一番心を砕いたのは、いかに組織を作り、組織をどう運営していくかである。私の入社後、高校新卒が3名入社してきたので、この3名を中心に組織を作っていこうと考えた。

彼らを2週間に1回残し、私が尊敬する先生の本を買ってきて配り、読み合わせを行った。センテンスごとに区切り、「この文章からどういうことを感じるか。私はこういうことを感じる。私と同じことを感じなさい」ということを3年間続けた。

いくら能力があっても、ものの考え方がしっかりしていないと、安心して組織を任せることができない。ある一つの言葉や出来事から受けるイメージ、例えば「お客様が怒っている」「納期に間に合わない」といった言葉から受けるイメージが、私と限りなく近いものでないと困る。

やがて、彼らを管理職に任命するタイミングがやってきた。
課長に任命する時に3人を呼んで、「お前たちは今日から課長だ。課長という限りは責任者だ。責任者だから、みんなお前たちに任せる。自分の好きなようにやればいい。遅刻してもいい、早く帰ってもいい。極端な話、会社に来なくてもいい。とにかく、私が受けてきた仕事を全部こなせ。自分の部門をきちんと運営しろ」という話をしたところ、非常によく働いてくれた。

思い切って彼らに仕事を任せたことがうまくいって、発展してきた。その後、順調に管理職が増えて、現在では役員7名、部長3名、課長9名が誕生している。全員、課長になる前の2年もしくは3年間は私の研修を受けてもらっている。

上下相互管理システム

最近、私は会社の中に、上下相互管理システムを作っている。ある時、管理職を全員集めて、「人間というのは、嫌いな人間を使うことはストレスがたまる。だから、嫌いな者はみんな辞めさせろ」と言った。

一方、一般社員には部門別の作業を難易度順に並べ、横に時間給を書いてある表を渡した。自分がその表の中でもう一つ難しい作業ができるのではないかと思ったら、推薦書を部門長に書いてもらう。推薦書が部長、常務、専務と回ってきて、私が承認すると次月昇級である。年に12回、昇級チャンスを作った。これは、上の者に好かれないと給料が上がらないというシステムである。

それに加えて、私は最近、幹部批判を始めた。「幹部について」として、「幹部=給料が高い者=長い間いる者。会社の規則は幹部から破る。会社の良き習慣を崩していくのは幹部である。会社の雰囲気を悪くするのは幹部である。会社の敵は会社を愛さない幹部である。幹部ほど働かないものである。下の機嫌をとる幹部は軽蔑せよ。幹部がしっかりしていない会社は弱い。給料が上がれば上がるほど、昼寝の回数が増える。給料が上がれば上がるほど、感謝が薄れる。評論家の幹部は恥を知れ」と書き、全社員に配った。このように、緊張感を会社の中に保ちながら運営をしている。

昔はアルバイト、パートも正社員と同じように4月に1回昇級していた。昇級の仕方は私と父が話して決めていたが、昇給に伴って責任が重くなると会社を辞めてしまう例があった。では、自分の給料を自分で決めたらどうかと仕事と賃金の対応表を配った。自分がどれくらいのレベルか分かるので、給料がたくさん欲しければがんばったらいい。責任を持たされるのが嫌なら、給料を上げに来なければいい。今、パートの人やアルバイトの人は、給料に対する不満を一切持たずに働いてくれている。

幹部に「嫌いな人間は辞めさせろ」という爆弾発言をしたが、これによって実際に辞めさせられた人はいない。逆に、そういうストレスを取ってあげることで自分の部下を好きになろうとしてくれた。

朝礼と3つの指針

旭紙工では全体朝礼は月に1回、部門ごとは毎朝行う。
朝礼で唱和している会社の指針は、「時を守り、場を清め、礼を正す」ということである。時を守るというのは、「時間を守る、納期を守る、タイミングを外さず、言うべきことを言い、するべきことを行う。世の中の変化を感じて自分も変化することを言うなり。すべてのことは時を守らねば成就せざるなり」。場を清める。「場とは自分の心の表れ。場を清めるとは、自分を清めるなり。自分を清めるとは、向上のための土台なり。足もとの屑(くず)を拾えない人間は、結局は何事も成さざるなり。故に場を清めることが成長の第一なり」。礼を正す。「礼とは人間の基本なり。礼なき人は人にあらざるなり。人のすべての行いは礼に始まり、礼に終わるなり。人より先に礼を行うは人の一生の最低の義務と心得るべきなり」。この全文を週に1回、全員で唱和する。

営業方針も決めた。「旭紙工はお客様のあたりまえに挑戦します」。「品質が優秀、納期を守る、価格が安い、土曜日曜でも無理が利く、印刷物に異常があれば報告が入る、訪問した時にはきちんと挨拶する、仕事を断らない、社内連絡がきちんとできている、予定変更に素早く対応する、社内の整理整頓ができている」。加工賃商売なので、難しいことはできない。だから当たり前のことをきちんとしようという意味で決めた。働く人間も一緒である。特別なことも難しいこともしなくていい。働く人間として、当たり前のことをきちんと行おうと徹底している。

マニュアル化と物作りの大切さ

豊かな時代に育ってきた昭和50以降生まれが会社の中心になることによって、作業のマニュアル化が不可欠になってきた。
そこで、教科書を作った。いきなり現場に入れると辞める人が多いので、入社した時、1日目、2日目でこれを徹底的に行う。結束のイロハから包装の仕方までも折り本の揃え方や、テープカッターの使い方や、パレットの組み方なども書いてある。この教科書を初期の社員教育に利用して、定着率が少し上がった。

豊かな時代に育った人は、「自分の好きな仕事をやればいい」と育てられている。私は、その親の言葉を覆す意味で、「だいたい、仕事は何でもしんどいものだ。しかし、働かなければ仕方がない。だから自分のやっている仕事を好きになるように努力しよう。好きになるまでがんばる忍耐力を持とう」という話を一生懸命している。

一般社員とアルバイト、パートに対する教育の着眼点だが、同じ作業をしていても、仕事の全体像を知ると知らないでは、大きな差ができてくる。何事もやらされていると感じて、自分の仕事に誇りを持てなければ、マニュアルを超えたおもてなしの心など、持てるわけがない。

当社に入ってくる一つの印刷物ができ上がるために、どれだけたくさんの人が知恵を絞って汗を流してやっているかということを、常に社員に話している。また、出荷する時は、30万冊のロットの場合、1冊は30万分の1だが、お客様に届く時は1分の1なのだと、物作りの大切さをいつも話している。

毎年のテーマで会社に変化を

旭紙工では毎年、その年のテーマを決めている。3年前のテーマは「組織強化、利益追求」であった。1時間ごとに機械の出来高をチェックして、この機械は利益を出したのかをきちんと把握している。2年前のテーマは「環境整備」。年間51週間あるが、仕事をしている人の探しものをしている時間を全部合わせると7週間か8週間分くらいになる。幹部になるほど探しものの時間が多くなる。従って、徹底的に整理整頓(とん)しようということで決めた。

営業のテーマも決めた。「価格競争より管理競争。規模拡大競争よりも教育競争しよう」ということである。同業者と競争するのは価格ではない、管理である。管理を強化すると製造原価を上げることにつながる。しかし、お客様に安心していただくために限界まで原価を押し上げて行っていくつもりである。また、規模拡大競争より教育競争というのは、いたずらに設備を増強して働き倒すと疲れが残る。それよりも社員教育に力を入れて、どの同業者にも教育では負けない会社になりたい。

去年は「成長とけじめと思いやり」をテーマにした。思いやりというのが一番大切である。多少会社が大きくなってくると、人間関係がかなり複雑になってくる。その人間関係を支えていくためには、個人個人の責任と信頼が不可欠である。一緒に働いている人を大切にしよう、お客様を大切にしよう、資材を納入してくれる人を大切にしようという感謝の念が大切だ。
今年のテーマは「現場力を強くしよう」である。現場力の強い会社に仕事が集まるし、ミスの出ない会社に仕事が集まる。徹底的な改善運動を、現在、進めているところである。

「変わることにはリスクがあるが、変わらないことが一番大きなリスクになるのだ」。私はこの言葉が大好きである。これからも時代がどんどん変わっていくと思うが、その度にいくらでも会社を変えてやるという意気込みでがんばっていく。

(2008年9月19日「印刷会社の人材教育を考える会」より)