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コンテンツの効果的な制作とビジネスモデルの提案
株式会社メディアコンテンツファクトリー 代表取締役/サイネージ広告媒体協議会 議長 毛塚牧人
サイネージコンテンツはさまざまな会社が取り組んでいる。コンテンツ制作は、設置先が自分自身で行ったり、印刷会社・デザイン会社やWeb制作会社、映像制作会社(テレビCMなど)が参入している。
コンテンツプロバイダーとしては、通信社、次いで新聞社が取り組み始めたが、雑誌社は自社メディアとのハレーションを気にしているのではないか。Web媒体会社は、Web媒体に使っているコンテンツをどうサイネージで露出させていくか、その上でWebにどう誘導するかなので、かなり良いコンテンツソースになる。また、街頭系のLEDビジョンなどでは、映画・音楽配信会社がメインのプロバイダーになり得る。
サイネージのコンテンツとはどうあるべきか、どういうスキルが必要かがまだ定まっていないので、だれにでも同じくらいチャンスがあるし、いろいろなところが参入してきている。
デジタルサイネージはロングテールのビジネスモデルで、ヘッドには交通広告や放送、空港の大型スクリーンなどがあるが、小さい会社が生きていくのはロングテールのほうが面白い。
サイネージのコンテンツ制作で重要なことは、(1)コストとスピード、(2)環境に合わせた尺とテーマ、(3)オリジナルコンテンツの3点になる。
デジタルサイネージでは時間と場所を選んでコンテンツを変えることができる。必然的に、必要とされるコンテンツが圧倒的に多くなる。かつ、露出回数がテレビと比べると非常に少ないので、コストとスピード感は、既存メディアとはかなり違ってくる。
デジタルサイネージのコンテンツ制作は、大体納期が5日以内である。手書き原稿や既存パンフレット、デジカメ写真などが送られてきて、依頼受領後、即制作を開始する。素材を基にFlashで制作し、足りない素材は保有素材で補完する。完成映像を基に確認・修正依頼まですべてメール・電話・ファックスでやり取りする。依頼当日から配信登録まで、5営業日以内でやっている。
従来の映像制作では、打ち合わせに打ち合わせを重ね、絵コンテを描き、監督やカメラマンが1~2カ月も掛けていた。そのほうが良い作品ができるだろうが、求められているサービスレベルはそこではない。ある程度流れが決まっている中でのライン管理が重要になる。
例えば、チラシに赤ペンで丸が付いているだけの指示で、Illustratorデータから抜き出してFlashで制作する。チラシの映像化に1週間も2週間も掛けていたら古くなるので、チラシ制作と同じスピード感で進める。印刷業界と同じく、コストとスピードが非常に大切になってくる。
また、設置環境によって視聴態度が全く異なる。環境に合わせてソースは同じものを使いつつ、見せ方をかなり変えていかないといけない。環境に応じた最適な尺やテーマ設定が大切になる。
商業施設などで来店客の動線上に設置する場合には、標準的尺は5~15秒になる。立ち止まって見ることはないため、できる限り瞬間的な視認で理解できる内容になる。駅構内のデジタルポスターは、ポスターなどの代替えと考えるとわかりやすい。
病院の待合室など、人が滞留する場所に設置された場合、暇つぶし的要素が強いため、1~2分程度の情報番組が適する。暇つぶしで見ていながらも、テレビで広告と認識しているものが流れた瞬間、見ている人たちは視線を外す。広告色をいかに消すかが重要で、そのための尺として2分が限度で、1~2分のコンテンツを回していくことになる。また、同じコンテンツを複数の環境で使えることはなく、コンテンツのボリュームが増える要因にもなっている。
さらに、サイネージ導入は何か発信したい情報があってなので、サイネージだからできるオリジナルコンテンツが重要になる。中央発の当たり障りのない情報よりは、「ここならでは」の情報でないと、サイネージはあまり意味がない。
オリジナルコンテンツをいかにリアルに近寄せるかも重要である。テレビの情報は少し遠くの世界と感じるが、テレビで流れているからそれなりに正しいとも思う。そこで、例えばフィットネスクラブの媒体では、スポーツ飲料のCMの登場人物をそのクラブのインストラクターにする。自分が知っているインストラクターが映像に出てくると非常にリアルで、説得感が出てくる。こういうオリジナル性が大きなポイントではないか。
サイネージのコンテンツ需要は、爆発的に増加していく。どれだけ細かく分類してオリジナリティにこだわれるか。そこでしか見られない、見せないコンテンツをどれだけ増やせるかが一つの方向性になる。1個のコンテンツ当たりの露出回数が少なく媒体費用も安いので、どうワークを減らしつつバリエーションを増やしていくかになる。
デジタルサイネージは、いわゆる生活シーンのような感情的なところに近いのではないか。例えば医療機関という場所が気に入って出稿するのではなく、健康に気を使うタイミングに集まっている場所ということに広告主も理解を示してくれている。
ネットワークでつながっているので、嗜好(しこう)性の組み合わせは無限に広がっていく。ロングテールの部分で、個々には小さいが非常に面白い組み合わせの仕方ができる。
例えば、AKB48は秋元康が全面プロデュースした女性アイドルグループだが、バリエーションの多さと低コストの好例ではないか。また、街角で時刻を手書きしたボードを持つ女性の写真が1分ごとに切り替わる「美人時計」もサイネージのコンテンツの方向性のヒントになる。サントリー角ハイボールのテレビCMには、放映する地域に合わせて「北海道の夜は」とか「博多の夜は」となっている。テレビCMも実はここまで来ている。
「Google 検索ストーリー」のCMも地名で検索する携帯電話の画面のアップだけで、さまざまなバリエーションが可能になっている。制作費とクオリティが完全に連動はしないという良い例だろう。デジタルサイネージでも同じようなことが、さらにもっと細かくできていくと思う。
デジタルサイネージは外に出ているインターネット端末なので、Webの更新性に限りなく近くなっていくだろう。小さなパーツを作ってバラ売りしたり、組み合わせてパッケージ化したり、コンテンツも媒体も連動性に向かっていくだろう。
素人の発想にプロの編集力をどう組み合わせていくかという、最終的にはクリエイティブが決め手になるのではないか。
(本記事は、2010年2月5日PAGE2010「C4 デジタルサイネージとAR(拡張現実)動向」の抜粋です。前編「デジタルサイネージ市場の広がりと新たなテクノロジー 」はこちらからご覧ください。)
(「JAGAT info」2010年4月号より)