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「働きがいのある会社」とは、「会社・経営層と従業員の間に信頼関係が築かれた会社」である。斎藤智文著『働きがいのある会社 日本におけるベスト25』より。
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組織と働きがい研究所所長 斎藤智文氏は著書『働きがいのある会社 日本におけるベスト25』(労務行政、2008年5月刊)の中で、日本で初めて、働く人の視点から見た企業ランキング25社について具体的な取り組み内容を紹介している。さらにアメリカ発のGreat Place to Work(働くのに素晴らしい場所)の考え方や開発の歴史、モデルなどとともに、日本や世界各国の「働きがいのある会社」の特長や具体的な事例を紹介している。
バブル経済崩壊後、日本企業の多くが短期的な業績志向を強め、社内構造の変革を進めてきた。その結果、最も強い影響を受けたのは従業員で、景気が安定局面に入った現在でも、多くの企業に閉塞感が漂い、従業員は疲弊感にさいなまれている。
新しい人事制度を導入する前に、まずその制度によって従業員が「やる気になるか」「元気になるか」「仕事に集中できるか」「働きやすいか」などを徹底的に検討しなければならない。しかし、従業員の感情を考慮せずに変革を進めた企業の多くが、従業員のやる気をなくさせてしまい、結局は長い低迷から抜け出せなくなっている。
アメリカでは株主や顧客以上に従業員を大切にする企業が増えている。企業の業績を向上させ、結果として株価を高めるのは従業員であり、顧客満足度を高める主体も従業員であると考える経営者が増えているからである。
最近、日本でも従業員満足度調査を実施する企業が増えてきた。不平・不満を減少させて「満足度」を高めることは重要だが、さらにモチベーションにつながる「働きがい」をプラスすることがより重要になる。今こそ日本企業には、従業員の「働きがい」を軸とした経営への転換が求められている。
「働きがいのある会社」とは、「従業員が、勤務している会社や経営者・管理者を信頼し、自分の仕事や商品・サービスに誇りを持ち、一緒に働いている仲間と連帯感を持てる会社」と定義される。最もシンプルに言うと、“会社・経営層と従業員の間に信頼関係が築かれた会社”である。
「働きがいのある会社」の考え方は、1991年にアメリカで創設されたGreat Place to Work (R) Institute, Inc.(以下GPTW)で開発された。GPTWでは「働きがい」に影響を与える要素を、信用、尊敬、公正、誇り、連帯感の5つに分類し、個別企業の従業員アンケートを基に独自の分析手法で評価した結果を、1998年から毎年、アメリカの著名な経済誌『フォーチュン』に発表している。
それまでの従業員調査が、会社の施策や制度に対する理解や納得度を聞くことで「自社の課題の発見」を目的としていたのに対して、GPTWの「働きがいのある会社」調査は、「自社の強みの発見」を目的にしている。従業員の視点から事実を把握・分析することで、具体的な組織改革につなげやすいというメリットもある。
現在、「働きがいのある会社」の活動は、北米、南米、ヨーロッパ、アジアの40カ国以上で展開され、日本では2006年に初めて実施された。2007年は3100社以上、100万人以上が参加し、従業員調査では世界最大規模のものとなった。その結果、「働きがいのある会社」は結果として売上高も大きく、利益率も高いことが証明され、かつ株価も高くなっている事実が明らかになっている。また、どんな会社でも「働きがいのある会社」に変革できることは、世界中にたくさんの実績があり、すべての会社は、「働きがいのある会社」を実現できることが証明されている。
日本における「働きがいのある会社」ベスト25は、2007年に実施した第2回の調査結果を基に、従業員の“生の声”を中心に、各社の「働きがい」をあぶり出し、25社がいかに「働きがいのある会社」であるかを紹介している。従業員の声を通して、それぞれの会社がどういう企業文化を持ち、どういう施策を実施し、どういったコミュニケーションを取っているのか、どんな人事制度を運用しているのかを紹介することで、自社が「働きがいのある会社」になるためのヒントを提供している。
「働きがい」のカギとなる「信頼関係」向上にはお金は掛からないが、逆に言えばお金で「信頼」を買うことはできない。「信頼」がベースにある会社がグローバル時代に勝ち残ることは、「働きがいのある会社」ベスト企業の事例が実証している。これからの日本企業は、株主のために最大の利益を生み出すことや品質の優れた製品を生産することに加えて、「働きがいのある会社」の実現を企業の明確な目標とすべきだろう。
11月27日(木)の「経営シンポジウム2008」では、本文で紹介した組織と働きがい研究所所長・斎藤智文氏を基調講演にお招きして、「従業員にとっての働きがいと、顧客にとっての魅力をあわせもつ会社作り」を考えます。