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一見すると似たようなテクノロジーであるがビジュアライズのベクトルは正反対の両者である。
2008年のインターネットの最大の話題はGoogleが提供し始めた「ストリートビュー」になるかもしれない。Googleはmapとか航空写真を提供していて、これはいろんなサイトでも組み込まれて利用されているし、地図の町の中をなどを探索すること自身を楽しむ個人もいる。「ストリートビュー」は航空写真のような上空からの地表写真ではなく、道路に実際に車を走らせて取った光景を基に、カーナビにあるような3D地図のようなものを作り出して、見る人がマウスで前後左右に行き来できるようにしたものである。
実際に撮影されたものであるから通行人が写っていたり、カメラの位置が人の背よりも高かったため、塀などで覆われていた部分も少し覗けるようになったことなど、プライバシー議論も呼んでいる。メリットとしては、まだ行ったことが無いところでもだいたいどんな光景であるのか想像がつくことで、知らない駅を降りてから大して目標物の無い住宅街を歩いていかなければならない場合など、「ストリートビュー」で「予習」をしておけば、その場に望んだ場合に「デジャブ」感覚が得られて安心なものである。
また他人の住所をGoogleMapで入れて、そこから「ストリートビュー」に移行することで、そこが一戸建てなのか、木造アパートなのか、マンションなのかは一目瞭然でわかる。これも結構プライバシースレスレの問題があるので、議論にもなり、かつそれを楽しみとする人もいる。すでにGoogleはGoogleEarthという地球儀から地表までzoomできるサービスも行っていて、これで人工衛星の視点からDoorToDoorの視点まで視覚的な探索を可能にしたことになる。
一方で昨年騒がれて2008年には話題が盛り下がったものに「セカンドライフ」がある。これも3DCGの仮想空間である。「ストリートビュー」も地図を3D化した仮想空間の壁面に現実世界から切り取った写真を貼っただけで、ほぼ同じような仮想空間の探索を提供しているものである。「セカンドライフ」は自分で仮想空間を構築しそこにコミュニティーを作り出そうというものであるが、ゲームの世界というよりはそこに現実の会社やお店・サービスなどを再現しようとするところに中途半端さとか無理があるように思える。
企業はインターネットの話題性に便乗したい願望があるので、広告代理店にそそのかされて「セカンドライフ」に出店することがあるが、客の賑わいは現実世界以下な場合が多く、一体なにをしようとしているのかわからなくなる。実際に「セカンドライフ」に向いたものと不向きなものがあって、アパレルなんかはさっさと撤退した会社が出て話題になったが、現実世界と違って「形のないものを買う」ようなビジネスができるのが「セカンドライフ」の特徴である。
また客に評価してもらって成果を積むという商習慣やマーケティング活動のようなものはテキパキゲームを進めたい人からすると相当まどろこしいもので、「セカンドライフ」を大衆的にブレイクさせる障害になっているのではないか。「セカンドライフ」のプロモータは無限にある仮想空間の不動産屋で、表現は自由であるが、「ストリートビュー」は現実世界を基にしているので構造は仮想でも有限空間であって、視覚表現としても限定的である。
つまり実際の建物の写真でもカタログにするときにはキレイにする場合があるが、いつのまにか撮影されてしまった景観の一部としての建物は、それを作った人の意向を尊重したものとは限らない。だからこそ客観性のある情報とも言える。これは写真というものの二面性を表している。報道や記録としての写真は、目撃者・証人に代わるようなもので証拠性のあるものと、女優さんの雰囲気を出したような「よりそれらしい」演出効果を加えたクリエイティブな写真である。これはレタッチという嘘もOKな分野である。
先に「セカンドライフ」にはねじれがあるような見方をしたが、「ストリートビュー」も今後広告モデルなどが発達してくると、証拠性のある写真を踏み外すことがあるかもしれない。一方「セカンドライフ」は演出効果を加えたクリエイティブなビジュアルを発達させて、非現実に素敵な世界に転化することも可能かもしれない。一見すると似たようなテクノロジーであるがビジュアライズのベクトルは正反対の両者であるように思う。
2008.10 JAGAT技術フォーラム