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PAGE2010では、デジタルサイネージと大判プロッタによるポスターやデジタルプリントの組み合わせによる効果など、いろいろな切り口でアナログとデジタルのハイブリッドの効果を見せられればよいと考えている。
2009年1月5日に電通が発表した新企業理念「Good Innovation.」では、そのために「その手があったか」と言われるアイデア、「そこまでやるか」と言われる技術、「そんなことまで」と言われる企業家精神が必要であるとして、「私たちは3つの力でイノベーションをつくる。人へ、社会へ新たな変化をもたらすイノベーションをつくってゆく。」という、今までとはずいぶんトーンの異なった、またドラスチックな内容で話題になった。
実際に電通は定款を変更してデジタルサイネージなども直接に幅広い領域で扱えるようにしている。また従来の広告業界は、アバブザラインの広告とビロウザラインの販促を別ビジネスとして区分けして、アバブザラインに比重を置いていたのが、印刷に関する販促の仕事も電通が印刷業と競り合うことが多くなり注目を集めた。
テレビ、新聞、雑誌などマスメディアの広告内容は近年大きく変化して、通販などが多くなった。これは一時的な広告費の削減というだけではなく、マスメディアの役割そのものが変化したことにもよる。日本のコマーシャルは「面白い」と言われていたのが、露骨に販売を行うものに変わってきた。アメリカのコマーシャル・コンテンツが、視聴者の人気取りをするよりは販売的な色彩が強かったのに日本も近づいたとも言える。
民放は、大きな広告収入に依存した無料コンテンツ提供という関係の上に成り立っており、過去は広告とコンテンツの蜜月が続いていた。しかし広告クライアントの予算縮小と番組の質の低下というギクシャクが始まって、蜜月時代とは異なる両者のバランスが模索されるようになった。新しいバランスというのは、放送もデジタル化しクロスメディア領域も含んだものになろうとしている。
これから広告と販促の世界は手を組んだりぶつかり合ったりして、新しいマーケティングのモデルを作っていくであろうし、また視点を変えると既存メディアとデジタルメディアも同様に手を組んだりぶつかり合ったりして、新しいクロスメディア制作のモデルを作っていくのであろう。
はっきりしていることは、広告も販促もマスメディアを中心に据えた過去のモデルだけでは進めないことであり、過去の領域を踏み外したさまざまなアイデアや手法がこれから出てくることを、冒頭の電通新企業理念は現わしている。これは中小企業にとっても新たな提案ビジネスに入っていけるチャンスである。
昨年から急速に目立ち始めたデジタルサイネージも、まだ実験的な取り組みが多く、成果を見つけるためのさまざまな工夫を積み上げなければならない状況である。しかし、今後デジタルサイネージの成果が見え始めた時には先行者が市場を押さえてしまうので、ビジネスとしての立ち上がりの前に激烈な競争状態になろうとしている。
いずれにせよ既存メディアに寄り掛かったままでビジネスをしようというクライアントはいなくなった。経済が成長していた折には印刷は景気に先行する形で良い状態になったために、楽観的な経営もあり得たが、今は印刷に限らずWebの販促でさえも見直しがされる状態になっている。PAGE2009ではテーマを「ゼロリセット」として、メディアの利用を一度白紙に戻して顧客視点で考えようとした。
そんな中で2009年にはマスメディアの退潮に対してはデジタルメディアによる双方向コミュニケーションツールが、また売り場・現場主導のデジタルサイネージが注目され、アナログの雑誌の雰囲気をデジタル・ネットで再現した電子bookの採用が多くなり、またデジタル・ネットとアナログ製本の融合商品としてPhotoAlbumがブレイクするなど、既存の技術でも組み合わせのいかんではビジネスにつながる例が幾つも見えてきた。このような発想で、今までと違うことを行う余地はまだまだばく大にある。デジタル・ネットの時代になれば、いろいろな要素の組み合わせやコラボレーションが可能になる。
だからまずすぐできることはやってみよう、ただしリスク管理はしよう、そして良いものを選んで育てていこう。PAGE2010では「やれば、見えてくる」という経験を多くの人が積んで、そこで知り得たことをお互いにシェアする契機にしたいし、今後もPAGEはその役割を担っていきたい。そうすることで「新生グラフィックビジネス」ができあがっていくであろう。
新しいことに取り組む時には無駄な努力が多くなるが、今はそのようなリスクを個々の企業が負うことは難しい。だから個別の会社だけではできない集合知で新生グラフィックビジネスを興していくことは重要なはずである。
2010年2月3~5日に開催されるPAGE2010では、いろいろな切り口でアナログとデジタルのハイブリッドの効果を見せられればよいと考えている。例えば昨年はデジタルサイネージが初登場したが、これからはデジタルサイネージと大判プロッタによるポスターやデジタルプリントの組み合わせによる効果を考えるべきである。
CGもそれ自体は確立した分野ではあるが、今は商業写真のレベルのものが要求され、CGのテクニックと製版レタッチの融合が求められるようになった。そのような能力を併せ持ったエキスパートはまだ非常に少ないので、新たなハイブリッド領域の登場である。
雑誌のコンテンツをeBookにすることはWebでも試し読みが多くなったように今日では当たり前になり、さらにAmazon.comのキンドルやSonyの新しい読書端末など、電子bookの広がりが世界的に期待されている。
CRM・ダイレクトマーケティング・デジタルプリント・フルフィルメントなどは、個別の領域として取り組むのではなく、トータルなサービスとして考えるところに来ている。デジタル印刷の後工程には封入封緘・メーリングがあり、うんと前の工程にはマーケティングがあり、それらをつなぐことでスムースな流れができる。
また販促物を制作することを考えると、デザインから、印刷物企画、販促企画へとさかのぼっていけば、デジタルサイネージまでも含む提案を作れるようになる。さらにデジタルサイネージはネットワークでつないで、関係先とリアルタイムにシンクロしてビジネスを進めるような発展をするであろう。
またDTPやデジタルプリントも広まるにつれて、オフセット印刷における「付加価値印刷」のような特殊加工や一貫加工のニーズが高まっている。箔押しやエンボス、光沢加工などとコラボしたハイブリッドメディアもPAGEの中の新たな潮流になりつつある。
このように一見デジタル化が行き渡って沈静化したかに見えるDTPの水面下はカンブリア紀のように過去にはないいろいろな試みがうごめいている。その中から次世代のグラフィックビジネスのモデルが出てくるであろう。クライアントのビジネスを支え、クライアントとともに発展するには、印刷の前後にバリューチェーンを成長させていくことであろうし、そのきっかけが今見え始めている。
(「JAGAT info」2009年10月号)